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願う冬 10
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意識が戻って五日、病室に戻ってから三日。
病院に行こうと思ってもどうしても一歩が踏み出せない俺に、上田さんから電話がかかってきた。
『早く来てあげてよ。僕が行っても全然喜んでくんないしさー』
なんと答えていいか迷っている俺に、上田さんは優しく告げてくる。
『時生、待ってるよ』
その言葉で家を飛び出した俺は、急いで病院に向かった。
余計なことも考えずに、『待ってくれてる』それだけを思って。
駅からの道のりも走って、病院に着いた頃には息切れをしていて。
息を整えることもせずに、ただまっすぐ時生さんの病室に向かった。
扉の前、一瞬だけ躊躇して───俺はゆっくりと開けた。
ベッドに起き上がり、晴れた空を見上げる時生さん。
その顔がゆっくりと振り向き…目が合う。
「遅いぞ」
「……っ」
「こっちこい」
動けずにいる俺に、時生さんは薄く笑みを浮かべて。優しく、呼んだ。
「遥」
一歩、足を前に踏み出せば…足はどんどん進んでいって。
ベッドのそばまで来ると、俺は時生さんに手を伸ばす。
その手を時生さんはしっかりと握り返してくれた。
───あったかい。
そのぬくもりが、何よりも時生さんが生きていることを教えてくれる。
「──と、きお、さ…」
「ん」
「……っ、」
ぐうっとこみあがってくるもの。
唇を噛みしめて、こらえる。
だけど、もう片方の手が伸びてきて、親指が唇をなぞって。
「遥。頼むから……そんな顔をしないでくれ」
優しく、優しく。ほぐすように何度も何度も。
「我慢、するな」
そして、その指は上に移動して…拭うように、目尻を拭った。
「遥」
───もう、ダメだった。
時生さんは、生きてる。
まだ、この人と一緒にいたいです。
だから。
お願いだから。
カミサマがいるのなら。
この人を連れて行かないで───。
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