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想う春 1
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桜の花が咲き誇り、辺りは空の水色と桜の桃色のコントラスト。
うららかな気候に、街を行き交う人々の顔もほころんでいるように見える。
そんな春の季節を感じながら、俺は上田さんと二人、カフェで向き合っていた。
「なに?相談って」
ニコリと笑いながらコーヒーをすする上田さん。そんな姿も絵になるなぁなんてボンヤリ思いながら、相談があるんですけど、と呼び出した理由を話す。
「あの…時生さんの好きなものってなんですか?」
「ん?時生の好きなもの?」
「はい。時生さん、もうすぐ誕生日だから…」
時生さんの誕生日。それを知ったのはつい最近のこと。
病室に行くと検査の為なのか時生さんはベッドにいなくて、テーブルの上には書類が乱雑に置かれていた。
気候がよくなってきた最近は窓を開けていることが多く、そこから強い風が吹いて書類を飛ばした。
慌てて拾い上げていくと、書類にまぎれて免許証が落ちていた。
気難しい顔をして写っている写真に思わず笑みがこぼれて、なんとなく目を走らせた先。
「──え…」
4月28日。生年月日の欄にあったそれに、自分の中になにか熱いものが巡るのを感じた。
「そんなの遥くんがかわいく笑っておめでとうって言えば十分だよー」
そんでちゅーでもすればなおよし!なんて真剣に言う上田さん。
「いやあの…そりゃ言いますけど、でも」
「ふふっわかってるよ。何か形あるものがいいんだよね?」
「…はい」
形あるもの。重いかもしれないけど、時生さんのそばに24時間置いておけるものをあげたい。
上田さんはそうだなーと考える仕草をする。
「あいつあんまり物欲ないんだよね。使えりゃいいし食えりゃいい、それが時生の考えでさ」
でも、と上田さんは穏やかに笑って俺を見つめる。
「遥くんからもらったものなら、時生はどんなものでも喜ぶよ。宝物みたいに大事にする。
ってこんな答えじゃ相談にならないかー、ごめんね」
「いえっ」
肩をすくめる上田さんに慌てて首をふる。
「そういう風に言ってもらえてすごい嬉しいです。…ちょっと考えてみます、何がいいか」
「うん。あ、そういえばさ、遥くんは誕生日いつなの?」
上田さんの質問に答えると、彼は驚いたあとに今日一番素敵な顔で笑った。
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