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眠らない春の朝
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午前3時47分
頭上から降ってくるのは最近良く聴き慣れた雀の囀りで。
午前4時3分
気が付けば、夜が明けていた。
✼*✲✽**✽✲✼
side 成瀬 淚(なるせ りつ)
朝の第一印象と言えば、
やけに目がしぼむという事だ。
やけに、冴えた頭と。
それと引換に酷いかお。
気怠い身体と、少しの安堵。
安い薄っぺらなカーテンに滲む光が目を刺す。
容赦の無い、朝が来る。
後2、3時間すれば眠れる気がするのだけど。
最近寝付きが悪いのは、急激に温度を引き上げつつあるこの、生温い気温のせいだと、気に揉むつもりは無いのだが。
窓を開けることもせず、生温い空間の中に一種の不快感と、居心地の悪さを抱く。
それでも、行動に移さない俺は、多分、とてつもない面倒くさがりに違いない。
思考は絶え間なく溢れ、
幾度となくこの煩わしい感情が胸を掻き乱す。
寝返りを打つ。
ギシッと鈍く唸るのは、まだ使って間もない真新しいベッド。
ひんやりと心地の良いシーツの冷たさを求め、握り締めた布団に頭を押し付ける。
深く深く、
何処までも。
深い眠りへと。
落ちてゆければ、どんなに楽かと。
考えるのだがやはり、それは難しいらしい。
俺は何時から不眠症になったのだろうか。
原因って奴は随分、はっきりしているのを、俺はよく知っていた。
柔らかな枕。
ふわふわと気持ちの良い感触の、布団。
名残惜しいが、それから手を離して。
訪れた朝に背を向けたくなるのを抑えて。
少し早い朝を迎えた。
酷く怠惰な朝を連れてくる。
まるで、それは。
俺が犯した罪のようで。
それは、確かに俺への罰のようだ。
起き上がり、ぼさぼさの髪を掻きあげ、
深く沈むベッドに、深く腰掛けた。
情けなく鈍い音を立て再びベッドは唸る。
蒼いカーテンから溢れる、ひかり。
時間が経つにつれ、それはより濃く、そして強くなる。
気が付けばカーテンに手を伸ばしていた。
暗闇に慣れていた瞳に、外の光が触れ、不愉快そうに目を細める。日の出はまだらしいが、随分辺りは明るい。
今日は、よく晴れた天気になるしよう。
そんな、天気予報のおねーさんの声が聞こえてきそうな、朝。
多くの人は、きっといい朝だと思う筈だ。
きっと、この清々しい朝を、快く迎えるのだろう。
そうだ、こんなにも、快晴が広がる、
暖かな春の朝を、誰が憂鬱だと思うんだろうか。
きっと、今までの俺だって、そうだった。
俺だって、この朝を快く迎えたはずだ。
春が好きだと言った君が。
桜の季節が好きだと言った君が。
好きな朝を迎えられることに、俺は、きっと。
頭によぎるのは、とても身勝手で酷く胸糞悪い、
もしも、のはなし。
自らが選んだ道を、
選択を、
後悔し、嘆き、悲しみ、哀れみ。
この胸の痛みさえも、ただ、愛しいだなんて想う、
俺の、自虐じみた考え。
ただ、ただ。
好き。
それだけで良かったじゃないか。
どんな形でも、どんな好きでさえも。
一緒に居られれば、良かったじゃないのか。
囁くのは、きみか。
それとも、俺なのか。
でもね。
それでも、どうしても。
君の"すき"と、俺の"すき"が一緒じゃないと嫌なの。
囁くのは酷く醜い、俺。
貪欲で、意地汚い俺なんだ。
ぜんぶほしい。
もっとほしい。
ぜーんぶ、本当にほんとうに全部。
足りなくて、喉が渇くんだ。
一緒にいればいるほど、気持ちが通じ合えば合うほどに。
欲しくなる。
足りなくなる。
これ以上を。
それ以上を。
狂おしいほどに。
求めた。
カラカラと音を立て、窓を開ける。
ひんやりとしていて、だけど何処か生ぬるい空気が部屋に入り込む。
ベランダから覗き込むその世界は。
何処にでもある、何の変哲もない。
変わり映えもしない、何時もの俺の日常生活で。
今は、まだ。
慣れないこの胸の痛みさえも。
ただ、君と繋がってる唯一のものだと思えば、ほら、こんなに愛しい。
押し当てた手のひらに力が篭る。
自然と笑が零れいた。
俺はきっと、幾度と無く繰り返す。
眠れない春の季節を。
そして、憂鬱な春の朝を迎えるだろう。
でも、大丈夫。
少しの間でも、耐えてみせるよ。
午前5時42分。
俺は今日の日の出を迎えた。
もうすぐ桜が散る。
ベランダには、風に運ばれ桜の花弁が舞散っていた。
それ迄、俺は、もう少し、このままでいようと思う。
ほんのすこし、胸弾むのは内緒。
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