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うららステップ
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でっかい公園のいつもの位置
オレは柔軟を軽くやってから、ウォークマンの音に合わせて動き出した。
「よっ、リッタ。」
1曲踊り終えたところで、グンジさんが、近付いてきた。
「今夜あいてる?」
「いや、夕方からちょっと店長に呼ばれてて…。」
「なんだ。そっか。じゃ、またな。」
ヒラヒラ振られた手に軽く頭を下げた。
グンジさんは、イラストレーターだ。
昔はかなり、売れてたみたいだけど…。
いまだに紙に絵の具のアナログ派なこともあってか
今は、なかなか仕事が無いらしい。
だから、オレより若い奴らには[自称・絵描き]だと思われてる。
オレだって、グループ組んでデビュー狙ってた頃からずっと[自称・ダンサー]。
昼間は、しがないスーパーの店員だ。
グンジさんを笑えない。
―こんな筈じゃなかったのになぁ。
溜め息をついたオレの耳に、澄んだギターの音色が聴こえてきた。
―よく知ってる、懐かしい曲。
歌うように、シットリと、優しく、響くメロディー。
―このアコギは誰が弾いてる?
ああ、それより…
オレはその場で、ゆっくり体を伸ばし、大きく息を吸った。
―やっぱり、気持ちいい。
夢中で、音に合わせ、ステップを踏む。
ターンして、シャッセ。
パドゥ・ブレ。エシャッテ、ソッテ、サンジュマン、アラベスク。
走って走って、ターン。
膝を着き、問いかけるように目線を上げて停まった。
そこに居たのは、10代と思ぼしき、少年。
こっちをポカンと見てた、と思ったら、速攻で消えた。
―あ~。
しまった。
悪いことしちゃったよなぁ…。
あまりの逃げられっプリに、正直ヘコんだ。
―ちょっと浮かれ過ぎて、ヒカレた、かな。
こんなオッサンがいきなり飛び出して来て、1人ミュージカルだもんなぁ…。
いたいけな少年を脅かして、練習の邪魔をしてしまった。
反省したオレは、とっととその場を後にした。
―そういや、オレもあの年頃は、かなりのナイーブくんだった。
憧れの人に、会えただけで、ガクガク震えてさ…。
そんなこともスッカリ忘れてしまっていた自分が、えらく汚れたように思えてならなかった。
もう一度、あの音色を聴きたかったけど。
何だか、胸が痛いし。
もう、ソッとしておこう。
翌日からは、別の公園へ出向くことにした。
「あれ?リッタさんじゃん!」
コーコーセー男子のレンが目敏くやって来た。
「おー、元気か?」
「ちょーどいいや。卒業パフォーマンス、チェックしてよ。」
「卒業?レン、おまえ。もうそんな年なのか。」
「そーだよ。明後日からは、憧れのキャンパスライフ。いーだろ?」
「ふーん。じゃあ、しっかりキメてみろ。」
流れ始めた音に合わせて、レンが跳んだ。
激しいリズムとメロディーに合わせた高速技はいつもながら正確だ。
上げた腕をゆるやかにギクシャク動かして、ターン。
一旦止まってから、いきなりバク宙を2回、側転、最後は股わりでポーズ。
「相変わらず、攻めてるなぁ。」
「俺はリッタさんみたいに、基本を習ったことが無いからね。スピードと勢いで誤魔化すんだよ。」
レンはそう言って、苦笑した。
「だったら、いっちょ、教えてやろうか?」
「マジ!?やったぁ!」
「じゃあ、水曜の夕方からな。オレはスタジオなんて持ってないド貧民だから、レッスン場はココになるけどな。」
「全然OKだよ。」
レンの喜びように、オレもつられて、嬉しくなった。
けれど。
そのレッスンも3回でオシマイになった。
「いや、あの…サークルが、さ?」
歯切れの悪い言い訳や、遅刻。レンらしくないと思ったら
ある日おそるおそる、こう聞かれた。
「リッタさんさ、…ムショ帰りって、マジ?」
オレは渇いた笑いを溢した。
「あー。それな。
ま、本気で殺るつもりでボコったし。今でも後悔は、してねーよ。」
「そ、そうなんだ…。」
「じゃあな、レン。」
「うん、またね。」
また、なんて日は来ないんだよ、レン。
オレは、その後とっとと帰って、早寝した。
そのせいか、えらく早く目覚めた翌朝。
今なら誰も居ないかと、公園に行ってみた。
太極拳?
団体でやってるジイサン達の真似をしながら、ゆっくり桜を眺めた。
―後悔はしてない。
でも、わだかまってるのは、確かだな。
オレの兄貴は母親のバレエスタジオを継いだ。
そこにオレの同級生がいた。2人は惹かれあって…まぁ、そうなった。
もっとキッチリしろ。用心しとけよ。何度もオレは言ったのに、まんまと同級生は、他のスタジオ内でマワされた。それがモトで2人は破局。同級生は転校して、踊ることをやめた。
ぶちギレたオレは、その時の首謀者をボコボコにした。
あまりにも表沙汰に出来ない事が多すぎたから
それなりなデッチアゲと、処置が取られた。
でも、同級生のココロはまだ癒えてない。
むしろ、オレが暴れたせいで、事態が悪くなったと逆恨みしてる。
それで、オレに生徒らしき奴や恋人が出来ると、速攻昔話で追っ払うんだ。
それでも、オレはアイツを止められない。
おまえの気が済むまで、やればいい。
―出来ればもう、止めて欲しいと思うけど
俺だってまだ、許せないままなんだからな…。
ひらひら舞う、花びらを見ながら、しばらくピケを続けた。
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