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捕らえられて
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僕は、薄紫色の本を、本棚の隙間に押し込んだ。
潤の妖しい気配に気もそぞろな僕に、潤は、尋ねた。
「今日はもう、この辺にしておく? この辺で解放してほしい?」
まるで僕が、潤に捕らえられているかのような口ぶりだった。
実際、僕は、潤の魔力で、潤の操り人形になったかのようだった。僕の意志も、僕の感覚も、潤に引き渡されてしまったように思えた。僕は、何の意志も、何の感覚もなく、ぼうっとなったまま、潤の方に顔を差し向けた。潤に魂を抜かれたような僕は、ぼんやり、潤の美しい顔を眺めた。
潤は、僕の顔の横に左手をのばしてきた。潤の手は、華奢な身体に比して大きく見えた。それがまた潤の姿を、人形じみて見せていた。潤の白い指先が、僕の右耳に軽く触れた。耳殻の骨の部分に、指先の先端が触れたのだ。
「あっ」
僕の口から、思わず小さな声が漏れた。潤の指先から、磁力か何かが出ているかのように、僕の性的な身体の部分に、一斉に指令が送られた。僕の神経は、電気信号を受けて、脳の中枢部から、胸、脚の付け根や、足の指先まで、全身を痺れさせた。
「潤……」
僕は、切なさに身を焦がした。潤に、どうかされたい、もう、こんな風に焦らすのは、やめて、と思った。阿片のように、モルヒネのように、僕の脳から、快楽の麻薬が、だだ漏れに流れ出した。
「あ、は……」
僕の口から、声にならない息が漏れた。
「どうしたの?」
潤は、唇の端に微笑を浮かべた。
「俺は何もしてないのに、そんなに感じたりして」
潤の指先が、また僕の耳穴の上部の骨にかすかに触れた。
「ここが、感じるの?」
潤は僕の表情を見ながら、嬉しそうに言って、指先で触れた。僕は、このままでは、気が違ってしまいそうだと思った。
「キス、して」
僕は、せがんだ。
「でないと、死んでしまうから」
僕は、訴えた。
「ふふ」
潤は、笑った。
「さっきまで、あんなに何度も拒んでいたのに、自分から求めちゃうんだ?」
「もう、我慢、できない」
「もう、陥落か。瑤、可愛いね。そんなにキスがほしいの?」
潤の吐息と、ささやきが耳元で聞こえた。
「して、していいよ」
「キスだけじゃ、すまなくなるよ? 本当にいいの?」
僕の髪に、潤の長い指が差し込まれた。僕は、ぞくりとした官能の喜びにうち震えた。
「捕らえられて、閉じ込められたいの? 捕まえられた蝶のように」
僕の胸の内で、どうにでも、してほしいという思いと、一欠片の理性が、せめぎあった。
捕まえられた蝶は、どうなるのか? 雌雄の交わりも知らぬまま、短い数日を愛でられて、死に、標本にされるか、捨てられるのだろう。運が良ければ、気まぐれなお情けで、死ぬ前に、身動きできないような狭い籠から出してもらえるかもしれないけれど。よろよろと這い出しただけで、飛ぶ力も残されておらず、地面に力尽きて、獰猛な蟻たちに、よってたかって顎で噛みつかれてしまうかもしれないけれど。
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