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薔薇
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「いい香りがする」
僕が、潤に背をあずけながら言った。
「ああ、これだね」
潤は、僕を腕から放した。
二三歩歩いて、向かいの、囲いの常葉樹の陰から覗いた、ピンク色の小ぶりの蔓薔薇に手を触れた。
「オールドローズは香りが強いんだ」
僕も、潤のそばに近寄った。
微かな風にのって、甘い香りが夜気に漂った。
潤は、垣根の間から手を伸ばして、蔓薔薇の細い茎をつかんだ。
「痛っ」
「大丈夫?」
僕は、潤の手をとり、傷めたであろう指先を口に含み、舌でなぞった。
「思いっきりつかんだでしょう?」
「ステムには棘がないと思ったんだ。柔らかくて、細い枝だし」
「潤にも棘があるんだから、当然あるでしょ」
「俺は、棘だらけじゃないかな。瑤にもある?」
「僕は薔薇じゃないから、棘なんかないよ」
「棘じゃなくて、毒?」
「それは、潤だろう?」
潤は、摘みかけた薔薇に、また手をかけたので
「また指を傷めるよ」
僕は注意して、鞄からカッターナイフを出して、短く切りとってあげた。
「カッターナイフなんて、どうして持っているの? 痴漢よけ?」
潤が尋ねた。
「違うよ。鉛筆を削るためだよ」
「そうか」
僕は、ナイフをしまい、摘んだ薔薇を潤に渡した。
「ありがとう」
潤は、小さな薔薇に鼻を突っ込んだ。
「そんなに、貪らなくても」
僕が笑った。
「花びらの感触が心地いいんだもの」
潤が微笑んだ。
「少し離して香るのがいいらしいよ?」
「そうなの?」
潤は、僕に薔薇を渡した。僕は片手に持ち、少し香って、すぐに離した。
「ずっと香っていると、感覚が麻痺してしまうから、少し香るのが、いいらしいよ?」
「ああ、そうか、刺激って、慣れてしまうものね」
潤は言った。僕は、潤に薔薇を返した。
「これは、水盤に浮かべよう」
潤は、薔薇を水に浸した。
「これで、いい香りがする」
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