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中年男と僕
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「綺麗だよ。泣いた顔も」
男が僕の髪を撫でた。
僕は、泣きたくなった。
「抱きしめていいかい?」
僕は、頷いた。
「君は、可愛い子だね。忘れていた何かを思い出させる。兄を愛していたころの、報われない切なさを」
男は、僕の背を撫でながら言った。
「そうじゃないな。もっと古い何か。私が与えてもらえなかった何か」
男の胸元から、体温の上昇とともにムスクの甘い香りが立ち、僕を蕩かした。
男の、手の平の愛撫が、懐かしく心地よかった。
髪を、背中を、掌が優しく撫でていた。
「君は、甘えたがりだね?」
男の、微笑んだような声が、耳元に聞こえた。
「君と交われば、私が欲しい何かが得られるんだろうか?」
僕は、首を振った。
「いいえ、それは違います」
「なぜだ?」
「貴方たちは、寂しい人たちですね」
僕は言った。
「ああ、そうだよ。こんなことでしか、互いの愛情を確かめられないんだ。もっと、深い快楽があるのなら、それを教えてほしい」
「快楽かは、わからないけれど」
「幸せは快楽だろう? もっと強い快楽、麻薬のような、しかも永遠に続く快楽」
男の僕をまさぐる手つきが、熱を帯びた。
「キスをしたい。君の涙に。君を眠らせる瞼に」
そう言って、男は、僕の瞼に唇をそっとつけた。
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