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番外編4 颯の幸せ パート1
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颯 side
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「ただいま~」
そう言って開けたドアの向こうに、人の気配は無い。
昔からそうだった。
両親は仕事が忙しくて、いつも、会えるのは朝の短い時間だけ。
しかもそれは、俺が少し早く家を出るだけでなくなってしまうような、些細な時間。
だから、『ただいま』に返事が無いことが、当たり前だった。
でも、だからと言って慣れるなんてことは全く無くて。
性懲りもなく、いつもいつも『ただいま』と言っては、寂しい思いをしていた。
でも。
「よし。今日は天ぷらだ~」
手を洗って、冷蔵庫を確認しながらエプロンを着ける。
米は前もってセットしておいたから、汁物と天ぷらだけ作ればOKだ。
冷蔵庫から材料を取り出して、天ぷら粉をつける。
そのまま油の中にいれれば、じゅわじゅわ、といい音がして、油の中で踊り始める。
しばらく、それを繰り返した時だった。
「ただいま~」
玄関から、愛しい人の声が聞こえてきた。
思わず、今すぐ玄関に向かいたくなる。けど、
油を放り出していく訳にもいかないため、我慢する。
でも、だからこそ、リビングに入ってきたら、真っ先に言うんだ。
『お帰りなさい』
って。
・・・昔は、『ただいま』に返事がかえって来ないのが、寂しくて仕方が無かった。
それは今も変わらない。
けれど、今はそれすらも幸せだ。
だってそれは、
俺が朝霞さんに『ただいま』の返事をあげられるってことだから。
だから俺は、『お帰りなさい』が返ってこなくても、
『お帰りなさい』を返せるだけで、十分嬉しい。
それが、今の俺の幸せ。
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描写にしたら一瞬で過ぎてしまう、たった二言。
でも、そんな些細なところで確かな幸せを感じる。
なんていうのが、颯の幸せの話でした。
このカップルはきっと、毎日、新しい幸せを発見しながら生きてゆくのでしょう。
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