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仲直りの第一歩
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落ち着くんだ、自分。
落ち着いて、思い出してみよう。
小さい頃の優人は、ちょっと我が儘で困ることもあったけれど、可愛くて可愛くて…何をしても許せるくらい大切な弟だった。
確かにそう思っていた。
血の繋がりがないことを知っても、優人への愛情はなくならなかったし、優人がいるから義母からの暴力も耐えられた。原因は優人だったけれど、悪気があったわけじゃない。まだ小さかったのだから。
あの時だって、優人はまだ中学生だった。それをいつまでも引きずっているのは、心が狭いのだろうか。
「兄さん……兄さん…ごめんなさい、痛かったよね、僕…僕……っ」
黙り込んでしまった俺に何を思ったのか、優人が俯いて嗚咽を漏らす。
震えながら一生懸命涙を拭う姿は、幼い子どもの様だ。きっと優人の心は、止まってしまっているんだろう。
頭も良いし知識もある。身体もすっかり大人になっても、心は幼いまま。
こうなってしまったのは、義父や義母のせいだけではない。俺も大概、優人に甘かった。
「ごめんなさい…兄さんっ、兄さん…ごめ、なさい。許して、兄さん…っ、に、兄さん…っキライにならないで」
「……優人」
震える肩に手を置くと、更にわんわんと泣き出してしまった。端から見たら、俺が泣かしているようにしか見えないだろう。
困ったなぁ…。
優人が泣き止む方法が一つある。昔はこれで直ぐに泣き止んだ。けれど、それをやるのは勇気がいる。
緊張で息が浅くなり、指先が冷える。
カチカチになる身体を何とか動かし立ち上がると、優人の前に立った。
「優人…」
「…っ…ふ…にい、さん?」
「…ぉ……おいで」
「に、にいさぁあああんっ」
両手を広げると涙でキラキラとする瞳で見上げてきて、タックルする勢いでお腹に抱き付いてきた。痛い…。
でも、グリグリと頭を押し付けてくる優人は、兄の贔屓目を除いても可愛いと思う。
優人の艶やかな黒髪を撫でてやると、少しずつ落ち着いてきた。
「兄さん、兄さん」
「…うん…。優人…落ち着いて、聞くんだ」
「ん…なに?」
緊張で大きく打ち付ける心臓の音は、優人に聞こえてしまっているだろう。怖いんだ。
またあんな事をされたら、そう思うと怖くて堪らない。
でも言わなければ。優人のためにも、俺自身のためにも。
…過去にとらわれず、歩んで行くためにも。
「兄さんは、もう二度と優人に嘘をつかない。約束する。だから正直に言うよ。兄さんは、優人が……怖い」
「……うん…」
「でも、大切な弟だ。大好きだよ、優人。出来ることなら、兄弟仲良くしたいと思う。だから…臆病な兄さんに、時間をくれる?」
「っ、兄さん…うん、うんっ、もちろん…兄さん、ぁ、ありがとう…」
それから暫く泣きじゃくった優人は今、小さな寝息を立てていた。
泣き疲れて眠ってしまうなんて…。
寝顔を見つめながら、どうしようか考える。
この体勢でいるのはキツいけど、優人を運ぶ力はない。優人は随分と大きくなっていて、俺よりたぶん10センチは高いだろう。
『大っきな子どもだ…無邪気でーーーー…』
日本語での呟きは誰にも聞かれることなく、夕食の準備で慌ただしくなる城内の喧噪に掻き消された。
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