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期待と絶望
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この世は、嘆きと悲しみしかないのだ。喜びや幸せなど、ほんの一時のまやかしに過ぎない。
「鬱陶しいぞ、愚弟」
「兄上にはわからない。わかるはずがない、俺のこの海の底よりも深い悲しみを……」
「…………アンバー」
「この間ですね、王子がユタさんにプレゼントをしたんですよー。で、お礼がデコチュー」
「……嫌だったのか?」
「兄上のバカ。やはり、わからないんだ」
そりゃそうだ。兄上は新婚ほやほや。さぞかし幸せな毎日だろう。
可愛い弟がこんなに悲しみ絶望しているというのに、書類仕事の方が大事なんてどうかしてるんじゃないか。
もっと優しい言葉を掛けるべきじゃないのか。
「……アンバー」
「苛々しないでくださいねー。弟君は、もっと濃厚な」
「もう良い。その愚か者を去勢しろ」
「兄上なんて、鬼畜野郎だ!」
「………アンバー」
兄上の執務室のソファーで丸くなっているだけなのに、どうしてそんな目で見るんだ。それでも血の通った人間なのか。
アンバーなんて落ち込む俺を笑って見ている。なんて酷い奴…。
まさかユタカのお礼が、額に一瞬掠めるだけのキスだなんて、誰が予想できると言うんだ。アンバーは知っていて黙っていたが。
風呂に入って、期待と息子を膨らませてベッドに入ったのに…。
「カティアスくん…」
「ユタカ…」
「ペンダント、ありがとう」
近付いてきた唇は迷うことなく額に触れて、直ぐに離れていった。
呆然とする俺にユタカは照れくさそうに笑い、おやすみと言うと眠り始めてしまった。隣りに期待で胸いっぱいの俺がいたというのに。
衝撃で元気をなくしてしまった息子が可哀想だった。
「あれから四日経っても、ユタカの顔を見ると泣きそうになるのだ」
「…一つ、確認しておきたいのだが…恋人同士ではないのだろう?」
「恋人?俺とユタカが?兄上、俺は同性愛者ではない」
「…………アンバー…」
「無自覚みたいなんですよー。生暖かく見守ってあげましょ、ね、ベリオール王子」
兄上もアンバーも、意味のわからないことを。傷心中の人間を虐めて楽しむなんて、悪趣味極まりない。
ああ、ユタカ。一緒にいたいのに、お前の顔を見ると辛くなる。
俺はいったい、どうしたら良いんだ。
今頃あの腹黒そうな弟と勉強中だろうユタカ。心配だ…。
「ユタカに会いたい…」
「……邪魔だ、出て行け」
「兄上、義姉上とどうやって同衾するんだ?」
「…アンバー、今すぐその愚弟を連れて出て行かなければ、私は大罪を犯しそうだ」
「はいはい、王子-。兄君の雷に打たれる前に、退散しましょーねー」
握りしめたペンをバキリと折る兄上に首を傾げる。握力自慢か?それくらい、俺にだって出来るぞ。
だが今それを証明するのは無理そうだ。
アンバーが首根っこを掴んで引き摺るから、兄上がどんどん遠くなる。執務室を出て兄上の姿が見えなくなっても、アンバーは俺を引き摺り続けた。
はて、不思議だ。
何故この城の者は、王子である俺がこんな扱いを受けているのに、にこやかに手を振ってくるのだろう。
手を振り返しながら、そう疑問に思った。
「アンバー、どこへ行くんだ?」
「ユタさんとこですよー」
「む、嫌だ。でも会いたい」
「はー、もうホントウザいんで、キスの一つや二つしちゃえば良いじゃないですか。あ、ユタさんが泣いちゃうかもなんで、それ以上はダメですよー」
何てことを言うんだ。
キスの一つや二つ?そんな簡単に出来てたら、こんなに悩み苦しんだりしない。
しかも、それ以上のことだと?いったいユタカのどんな痴態を想像したんだ。破廉恥な。
「王子-。それ以上クソみたいなこと言ってると、俺が罪犯しちゃうかもー」
俺を引き摺りながら振り返ったアンバーの顔を見て、口を噤んだ。
目が…開いている……。
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