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「いいのかい、君?」
当惑したような、困惑したような、だが、優しく穏やかな声が響いた。
白い肌に白い髪。腰まで届くような長くなめらかなまっすぐな髪を、後ろでゆるく一つにまとめ、白くなめらかな、いかにもやわらかそうな打掛をふわりと身にまとった、全身白一色の、だが、その両眼にだけ、鮮やかな緋色を宿した、なめらかに整った、だが同時に、ひどく穏やかでつつましげな顔をした、青年とも中年ともつかぬ『もの』が、困惑げに微笑みながら、だが、同時にこよなく愛しげに、眼前の存在をそっと見つめていた。
「私は、蛇だよ?」
「知ってる」
眼前の存在は、なにをわかりきったことをいっているんだこいつは、とでも言いたげな、ぶっきらぼうなこたえを返した。
赤銅色の肌に緋色の髪。短く刈り込まれた硬い髪を、ツンツンと頭から飛び出させ、その若々しく、猛々しく、そして同時に未だ色濃く幼さとあどけなさとを残しているいかにもきかんきそうな顔の中では、金色の両眼が爛々と、炯々と輝いている。その若さと幼さと猛々しさとが混然一体に混ざりあうみずみずしい肢体は、紅い袖なしの胴着と黒い裁着袴とで簡単におおわれている。白い『もの』の眼前の存在は、そんな少年の姿でもって、拗ねたように口をとがらせながら、白い『もの』をジッとねめつけていた。
「だから? それがどうした?」
「それがどうした、って――だって、君は竜だろう、暁丸(あかつきまる)?」
「三日月(みかづき)――おまえ、竜は嫌いなのか?」
紅い少年――暁丸は、どこか愕然としたように白い『もの』――三日月にそう問いかけた。
「そんなわけがないだろう」
三日月は小さく苦笑した。
「『龍』はともかく、『竜』と会うのは、私も君が初めてだがね。けれども私は、竜が嫌いなわけではないよ。いや、『竜』が、というか――」
三日月は、はにかんだような笑みを浮かべた。
「私は、君が大好きだよ、暁丸」
「だったらどうしてそんなことを言うんだよ?」
暁丸は、またしても拗ねたようにそのなめらかで張りのある頬を膨らませ、そのいかにもやわらかく、同時に素晴らしい弾力がありそうな幾分ぽってりとした唇をとがらせながら、三日月をにらみつけてそう問いかけた。
「だって、その――私は蛇で、君は竜なのに、それなのに、私を君の『番い(つがい)』の相手に選んでしまっていいのかい、君は? しかも、その――私は、その、い、一応、雄、なのだが――」
「俺に抱かれりゃ雌になる」
暁丸は、おそろしいまでの自信と確信とを込めてそう言い切った。
「もしならなくても、俺には両方あるから、そんときゃそんときで、そしたら俺がおまえの卵産んでやる」
「……なるほど」
三日月は、パチクリとその緋色の両眼をしばたたいた。
「しかし、その――私は蛇だから、竜の君よりもだいぶ力が弱いのだが――」
「だから?」
暁丸は心底不思議そうに首をひねった。
「あ、もしかして、俺が手加減できなくて体をブッ壊されるかも、とか、そういうのが心配か? 大丈夫だって、ちゃんと手加減するって! 優しくする! 優しくするから――な!?」
「いや、別に、そんなことを心配しているわけではないのだが」
三日月は、おかしそうに苦笑した。
「ただ――こんなに力が弱い私が、君の番いになってもいいのかな、と思って」
「でもおまえ、この村の蛇神様やってるじゃん。力、弱くねえよ、全然?」
暁丸は不思議そうに小首を傾げながらそう言った。
「ああ、うん――まあ、蛇としてはそれなりに、力は強いのだろう、と思うのだが――」
「三日月」
暁丸は、自分より背の高い三日月に頭突きをせんばかりの勢いでずいとつめよった。
「俺、おまえが弱いって文句言ったこと一度もねえよな!?」
「ああ、それは、確かにそうだね」
三日月は、真顔で大きくうなずいた。
「俺の番いになれよ、三日月」
暁丸はその金色の両眼を、三日月の緋色の両眼に食い入らせた。
「そうしたら、おまえが死んだら、全部食ってやるから」
「ああ――それは、いいね。うん――実にいい」
三日月は、ひそと微笑んだ。
「ただね、暁丸」
「なんだ、三日月?」
「私が死んでも、子供は食わないでおくれ。その時私と君との間に、子供が産まれていたらの話だけど、ね」
「あったりめえだ、ばーか!」
ふくれっ面でそう叫ぶなり、暁丸は三日月の首っ玉に、えいやとばかりにかじりついた。
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