アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
9
-
「…………」
「…………」
「……しゃべれるか?」
「ん……水をもらえたら、うれしい……」
「水? ああ、ええと――」
暁丸はキョロキョロと社の中を見回し、ややあって、水瓶を丸ごと持ち上げて、ぐったりと横たわる、下半身が白い大蛇のままの三日月の傍らに持ってきてドスンと置き、その水瓶から自分の口で直接水を啜りあげ、そのまま口移しで三日月に何度も水を飲ませた。
「……ありがとう。もう十分いただいたよ」
三日月はニコリと微笑みながら、わずかに身を起こした。
「ええと……私はどのくらい、眠ってしまっていたのかな?」
「ん? もうすぐ朝だぜ」
暁丸はあっさりとそうこたえた。
「そうか。教えてくれてありがとう。ええと……ああ、しばらく、完全な人間の姿にはなれそうにないな……」
三日月は、ため息をつきながら白い大蛇のままの下半身を眺め、その下半身の襞、三日月の生殖器を収めた総排出腔を何気なく見やり、そこが未だに赤くぽってりと腫れて熱を持っているのを見てパッと顔を赤らめた。
「おまえが寝てる間に、いっぱいなめてやったんだけどな」
暁丸は三日月の視線を追って真顔で言った。
「まだ痛えか?」
「いや――ちょっとジンジンしているくらいだよ。ありがとう、暁丸」
三日月ははにかんだように微笑んだ。
「……腹減った」
暁丸は、唐突にボソリとそうつぶやいた。
「もう少し待てば、村の人達がお供えを持ってきてくれるけど、君は、それじゃあ足りないかな?」
「っていうか、おまえいつもよくあんなもんで足りてるな」
「まあ、お供え以外にもそれなりにつまみ食いはしているし」
三日月は小さく笑った。
「狩り、行ってきていいか?」
「いいけど、人は食べちゃ駄目だよ、絶対」
「チェッ、わかってらあ」
暁丸はプッとむくれた。
「なあ」
「ん?」
「おまえ、なんか食いたいものとかある?」
「え? そうだなあ――お餅が、食べたいなあ」
「……へ?」
暁丸は、ポカンと口を開けた。
「なあ、『おもち』って、なんだ?」
「あ、ごめんよ。君はまだ知らなかったんだね」
三日月はすまなさそうにそう言った。
「お餅っていうのは、ええと――人間のつくる食べ物だよ」
「おまえ、それ好きなのか?」
「うん。まあ、蛇としては悪食なのかもしれないけどね、お餅が好きだ、なんて。でも、好きなんだよ、あれ」
三日月は照れたように笑った。
「そっか。よし、じゃあ、俺、村の連中に言って、その『おもち』っていうのをつくらせてくる!」
「あ、ちょ、ちょっと待ってくれ暁丸! 村の人達にそんな無理を言ったりしたらいけないよ?」
「でも、おまえ、『おもち』が食いてえんだろ?」
「うん、でも、今すぐじゃなくていいんだ。ごめんよ、君が聞いてくれたから、ついつい言ってしまったんだ」
「肉とかなら、俺がすぐ狩ってきてやるのに」
暁丸は、拗ねたようにそう言った。
「ありがとう、暁丸」
三日月は愛しげに微笑んだ。
「そうだね、うん、確かに肉もいいねえ。とても、精がつくから」
「っていうか、おまえ蛇だろ? 蛇って普通、いつだって肉しか食わねえじゃねえか」
暁丸はあきれたようにそう言った。
「うん、まあ、それは確かにそうだけど、けれども私は蛇『神』でもあるから」
三日月は、すました顔でそう言った。
「だから、まあ、肉以外にもいろいろと食べているんだよ」
「そりゃ、俺ももう知ってるけど」
暁丸はクスンと苦笑した。
「なあ」
「ん?」
「おまえも、腹減った?」
「そうだね――実はペコペコだよ」
三日月はおどけたように笑った。
「……なあ、三日月」
「なんだい、暁丸」
「俺――腹が、減ってるんだ」
暁丸は、どこか当惑気にそうつぶやいた。
「だから、ほんとは、今すぐ狩りに行きてえんだ。なのに――それなのに、おまえがそういうふうに笑うと――おまえが笑うと、俺――俺、おまえのそばを絶対に離れたくなくなっちまうんだ。なあ――変だよな、こういうのって? なあ、三日月、俺――いったい、どうなっちまったんだろう――?」
「おいで、暁丸」
三日月は即座に、その細くしなやかな両腕を広げて暁丸を呼んだ。
「ああ……私達は本当に、番いになったのだねえ、暁丸……」
「……なあ、三日月」
暁丸は、大人しく三日月の腕に抱かれながらおかしそうに笑った。
「おまえ、なんで時々、そういう死ぬほどあったりまえのことを言いやがるんだ?」
「そうだね――とても、うれしいからだよ、暁丸」
「へーんなやつ!」
暁丸はケラケラと笑った。
「変なやつは、嫌いかい?」
「ばーか、誰もそんなこと言ってねえだろ」
暁丸は、楽しげに笑いながら、三日月のなめらかな胸に、グリグリとその若々しい顔をこすりつけた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
9 / 45