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「……んぐ……」
「君の口には、あまりあわなかったかい?」
三日月が美味しそうに食べているのと同じ、具がどっさりと入った、洗練されているとは到底言い難いが、だが、その分栄養がたっぷりと入っている雑煮の餅を、不思議そうな顔で口に入れて、なんとも言えない表情になって口をモムモムとさせる暁丸を見て、三日月は穏やかな笑みとともにそう問いかけた。
暁丸と番いになり、契りを結んだその影響で、下半身が白い大蛇のまま、完全な人間の姿になりきることが出来ずにいるため、村のみんなをびっくりさせてしまっては申し訳ないと、社の中から出ようとしなかった三日月を、ミズハをはじめとする村の者達が、今更そんなことで三日月様のことをどうこう思ったりなんかしない、と懸命に説き伏せ、三日月は今、下半身が白い大蛇の姿のまま、上半身にはいつもまとっている純白の打掛をまとい、なんとも面映ゆそうに、時おり照れ笑いを漏らしたり、村人のからかい半分、祝福は半分以上の様々な問いに、時にはうれしそうに、時には誇らしげに、時にはあわてふためき、時には羞恥にその頬を赤く染めながら、律儀に誠実に、いちいちこたえてやっていた。
「ん……っていうか、これ、味がねえぞ?」
口の中にあるものを、飲み込んでいいのかどうか今一つ自信がないと言いたげな顔で、それでもなんとか噛んでいた餅を飲み下した暁丸は、ひどく不思議そうな顔でそうつぶやいた。
「え? 味がない? そんなことはない、と思うけどな?」
「だって、これ、甘くも辛くも酸っぱくもしょっぱくも苦くもねーぞ? うーん……まあ、強いて言うならなんつーか……うすら甘い、ような気はする、けど……」
「ああ、そうか、君の御国では、もっとはっきりとした味付けが主流なのか」
三日月は小さく苦笑した。
「そうだね、確かに、慣れない人が食べたら味がないように思えるのかもね。暁丸、無理しなくてもいいんだよ。口にあわなかったのなら、君の分は私にくれ。私が食べてしまうから、ね?」
「いや、もうちょっと食ってみる。食ってるうちにだんだん美味くなってくるかもしんねえし」
暁丸は真顔でそう言うと、再び決然と雑煮の餅に立ち向かった。
「…………」
「あ――もしかして、お餅のこの、歯ごたえや食感も、君にとっては不思議なものなのかい?」
「ん」
暁丸は、餅をモムモムと噛みながら、コクコクと数回うなずいた。
「そうか、なるほど。そうだよねえ。だって、君がお餅を食べるのは、今日が初めてだもんねえ」
三日月は、穏やかに、そして愛しげに微笑みながら暁丸にうなずきかけた。
「……やっぱり、うまいんだかまずいんだかよくわかんねえな」
暁丸は、未だにどこかいぶかしげな顔でそうつぶやいた。
「まあ、そのうちによさがわかってくると思うよ。そうなってくれるといいな」
三日月は、その緋色の目を細めながらそう言った。
「三日月、おまえ、いっぱい食えよ。いっぱい食って、ちゃんと体に精をつけるんだぞ!」
暁丸は、自分との会話のせいで箸がとまっている三日月を軽くにらみつけながら、真顔でそう命じた。
「ああ、ありがとう、暁丸。ちゃんと食べているよ。美味しいから食べすぎてしまいそうだ」
「どうぞ、どんどん召し上がってください」
ミズハは三日月にそう言いながら、急遽宴会の場と化した境内に並べられた様々な料理を少しずつ取り分けた皿を三日月に勧めた。
「ああ、ありがとう、ミズハちゃん」
三日月はにっこりと微笑んだ。三日月は、この小望月村の人々すべての顔と名前を熟知している。
「……三日月様、あの、無礼は重々承知の上ですが」
ミズハは遠慮がちに、そっと三日月に問いかけた。
「その……御子は、すでに……?」
「いや――たぶん、まだだね」
おそらく、その問いを発したのはミズハが初めてというわけでもないのだろう。三日月は特に動揺も見せず、穏やかな声でそうこたえた。
「そのためには、その――もう少し、私の体が変化しないと、たぶん、まだ無理だと、思うよ」
「ありがとうございます。不躾なことをおうかがいして申し訳ありません」
「いや、いいんだよ。ミズハちゃん。村のみんなからすれば、気になって当然のことだろうし」
三日月は小さく苦笑した。
「子供が出来たら――というか、出来る前からきっと、村のみんなにはいろいろと、迷惑や面倒をかけてしまうだろうと思うのだけど」
三日月は静かにそう言った。
「それでも、やはり――私は、暁丸の子を産みたいんだ。急な話で本当に申し訳ないと思っているが、それでもどうか、私に――私達に、少しだけでもいいから力を貸してもらえると、私はとても、うれしいのだが」
「三日月様」
ミズハは軽く三日月をにらんだ。
「この村に、三日月様の力になれることを喜ばない者など一人もおりません!」
「うん――ありがとう」
三日月は、フワリと微笑んだ。
「食ってるか、三日月?」
暁丸は、ミズハと話し込む三日月を不満げににらみつけながら唐突にそう問いかけた。
「ああ、食べているよ、暁丸」
三日月はそうこたえながら、ミズハが持ってきた皿から、卵焼きを箸で取り上げてヒョイと口に運んだ。
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