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三日月が目覚めた時、その緋色の瞳の前には、暁丸の金色の両眼があった。
「……おはよう、暁丸」
三日月は、白い大蛇の姿のまま、うれしそうにそう言った。
「おはよう、三日月」
暁丸は、無邪気で幼い少年の姿で、緋色の髪を、金色の瞳を、赤銅色の肌を輝かせながら満面の笑みと共にそうこたえた。
「腹へったろ? 食うもんいっぱいあるぜ!」
そう言って得意げに胸を張る暁丸の視線を追った三日月は、その先に、暁丸が山河を駆け巡って狩ってきたのであろう、禽獣や魚の山を、そして、村人達が持ってきたのであろうお供え物を、暁丸が彼なりに丁寧に並べて置いてあるのを見て蛇の姿のままにっこりと笑った。
「ありがとう、暁丸。それじゃあ、さっそくいただこうか」
「どれ食う? おまえ、兎好きか?」
暁丸はそう言って小首を傾げながら、グナグナとした野兎の体をヒョイと片手で持ち上げた。
「好きだよ。兎なら食べやすくていいね」
三日月はそんなことを言いながら、その大蛇の口をあんぐりと開けた。
「ほれ」
暁丸は楽しげにそう言いながら、三日月の口の中に軽やかに野兎を放り込んだ。
「でも、そんなんじゃ全然足りねえだろ。もっと食え。おまえの体にもっと力が溜まらねえと、おまえ、俺の子孕んで産むなんてぜってー無理だからな」
暁丸は、口をとがらせながらそう言った。
「ああ……それは確かに、そうかもしれないねえ……」
三日月は小さく苦笑したようだった。
「どんどん食え」
大真面目な顔でそう言いながら、自分の口に次から次へと食べ物を放り込んでくる暁丸を、三日月は愛しげに見つめながら、暁丸からもらった食べ物を、次から次へとグイグイ飲み込んだ。
「暁丸、君は食べなくていいのかい?」
暁丸の手がわずかに止まった時を見計らったように、三日月はそう声をかけた。
「俺は、おまえが寝てる間適当に食ってたよ」
暁丸は、幾分きょとんとそうこたえた。
「でも、御飯は誰かといっしょに食べたほうが美味しいから、君も私といっしょに食べてくれるとうれしいな」
三日月は、穏やかにそう言った。
「ああ、おまえ前もそんなこと言ったことあったな」
暁丸は、何か納得したようにうなずいた。
「どれ食おうかな?」
「君は、どれが好きだい?」
「俺、あんまり好き嫌いとかねえな。大抵なんでも食える」
暁丸は小首を傾げながらそう言った。
「ああ、うん、それはまあ、もうなんとなく知ってはいるけどね」
三日月は小さく笑った。
「でも、どれが好きなのかもっとよく知りたいな、と思ってね」
「んー……あ、鳥、好きだ」
暁丸はそう言いながら、よく太った山鳩を片手でつかみあげ、少年の姿のまま、口だけガバリと耳まで裂けてその山鳩をあっさりと飲み込んだ。
「鳥は美味しいよね。私も好きだよ」
三日月は穏やかにうなずきながらそう言った。
「じゃ、やる!」
暁丸はうれしそうにそう叫びながら、その色あいも美しい山鳥を三日月の口に喜々として投げ込んだ。
「ああ――美味しい。ありがとう、暁丸」
「美味いか? もっと食え!」
暁丸は、本当にうれしそうにそう叫んだ。
「ああ、暁丸」
三日月は、しみじみと言った。
「君はきっと、とてもいいお父さんになるだろうねえ――」
「ん? そっか? 俺はよくわかんねーけどな、そういうの」
暁丸は不思議そうに、首をひねりながら金の瞳をしばたたいた。
「私にはなんとなくわかる。君はきっと、素晴らしい『親』になるよ」
三日月は静かに、だがきっぱりとそう告げた。
「おまえは、いい雌になる」
暁丸もまた、きっぱりと三日月にそう告げた。
「っていうかもう、大分そうなってる」
「ああ……それは確かにそうだねえ……」
三日月は、どこかフンニャリと笑った。
「でもおまえ、もっと食ってもっと太らないとだめだぞ」
暁丸は三日月の、緋色に輝く白い大蛇の両眼をのぞきこみながらそう言った。
「うん、そうだね。私も、いい子を産みたいからね」
三日月は、白い大蛇の頭をコクコクとうなずかせた。
「……餅、ねえな」
大分量を減らした食べ物の山を見渡しながら、暁丸は不満げに口をとがらせた。
「でも……これは、ちょっと似てる、か?」
暁丸は、幾分心もとなげにそう言いながら、今日の分のお供え物の中に入っていた、味噌をつけて焼いた焼きむすびを取り上げて、首をひねりながらジロジロと見つめた。
「ああ、いいね。とても美味しそうだ。それを食べるなら――人間の口で食べたほうが、美味しく食べられそうだね――」
三日月はそうつぶやきながら、ユラリとその身を揺らがせ、その上半身だけを人間の姿へと変じた。
「ほれ、食え」
暁丸は屈託なくそう言いながら、三日月に焼きむすびを手渡した。
「ありがとう。君もいっしょに食べてくれるとうれしいな」
三日月はにっこりと笑いながらそう言った。
「ん、じゃあ、俺も食う」
暁丸はそう言いながら無造作に焼きむすびをつかみとり、なんとはなしに三日月と顔を見あわせ、お互いこれまたなんとはなしに笑みかわしながら、程よい焦げ目のついた焼きむすびを、そろってパクリと口に入れた。
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