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侑紀さん… side.千尋
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「カーット!」
今日、最初の撮影シーンが終わる。
「yu-ki*ちゃん!いいね!」
「…あり、がとう、ございます…。」
撮影が終わっても涙を流し続ける侑紀さんはつっかえながら監督へ言葉を返す。
侑紀さん……。
見ているこちらまで胸を締め付けられるような切なさを感じる迫真の演技だった。
セット内では涙が溢れ続け嗚咽を上げる侑紀さんを柊さんが心配そうに見つめていた。
「なあ、千尋。侑紀くん大丈夫なのか?」
翔太が耳元で心配そうに告げる。
「駄目だ。俺はハンカチを持って行くからお前は俺の保冷バッグの中から冷やしおしぼりを持って来てくれ。」
「りょーかい。」
ポン、と頭に手を置かれる。
まるで、頑張れよ、とでも伝えるみたいに。
翔太が楽屋に向かうのを見て俺も侑紀さんの元へ向かう。
「yu-ki*さん、大丈夫ですか?ハンカチです。これで涙をぬぐってください。」
「高槻さん…。ありがとうございます。」
侑紀さんはしゃくりあげてしまっていたため呼吸を整えようと深呼吸をする。
それをしながら目元も優しくぬぐっていく。
俺はそれを見届けて、監督の元へ向かう。
「すみません、監督。yu-ki*を楽屋で休ませてもよろしいでしょうか?」
「ああ、構わないよ。多分役に入り込みすぎたんだろう。天才肌の役者にはたまにあることだからね。10分後に戻ってきてくれればいいよ。」
「ありがとうございます。では、失礼いたします。」
監督に礼をして侑紀さんの元へ向かう。
役に入り込みすぎたんじゃない。
侑紀さん自身の感情が涙を流させているのだろう。
俺はそう思う。
侑紀さんは多分柊さんのことが恋愛感情として好きなのだろう。
本人はまだ無自覚だけれども。
侑紀さんは感情面の成長が少し遅い。
というか、あの母と共にいた時に一度止まってしまった。
このまま柊さんと残りの1ヶ月を過ごしていくうちに止まっていた成長が動き出せばいいと思っていた。
でも、その期待は砕け散った。
侑紀さんも正体不明の感情を胸に抱き続けていたはずだ。
その感情が何かわからないうちに終わりはあっけなく訪れてしまった。
そのため、彼の中の感情が錯綜してしまい涙を流させているのだろう。
侑紀さんを勝手な事情で振り回してしまった俺たちが侑紀さんを苦しめてしまっている。
だから、せめても俺たちが侑紀さんの味方になり、支えなければならない。
涙が止まらず嗚咽を上げる侑紀さんを見て、罪悪感に胸が焼かれる。
「yu-ki*さん、一度楽屋に戻りましょう。メイクを直しながら落ち着きましょう?」
「…はい。」
ふらつく侑紀さんを支えながら楽屋に急いだ。
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