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どうしたんだ…? side.諒
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侑紀は、撮影が終わると呆然とし涙を溢れさせていた。
役に、のめり込みすぎたか。
俺の最初の見解はそれだった。
でも、終わってもずっと侑紀は泣き続けていた。
一体侑紀はどうしたんだ…?
高槻さんが侑紀をつれて楽屋へと戻っていく。
その間も侑紀は泣き続けていた。
俺もその間休憩になった。
だから俺は侑紀の楽屋へと向かった。
共演者の楽屋へ向かうのは別におかしいことではない。
yu-ki*をしているときの侑紀に堂々と対面できるのは、こういう時だけだ。
コンコン、と軽い音を鳴らして楽屋のドアをノックする。
中から、ほんの少し侑紀の声が聞こえた。
「すみませんでした。橘さん、メイクを直していただいてもいいですか…?」
悲痛な声だった。
本人はおそらく、気丈に振舞っているつもりだろう。
でも、聞いているこちらにはわかってしまう。
侑紀が無理して笑っていることが。
胸が、締め付けられる、ようだった。
今すぐ抱きしめたい。
抱きしめて大丈夫だと伝えてあげたい。
中からの返事がないけれど、体が勝手に動いて中に入ってしまう。
「大丈夫だ。侑紀。」
侑紀の頭に優しく、ポンと手を置いて安心させるようにそっと撫でる。
「柊さん!?」
「…りょうさん?」
侑紀は涙がたまって可愛そうなほど潤んでいた。
おそらく侑紀は混乱している。
自分が誰だかわかっていない。
いや、自分の意思がどこだかわからなくなっているのだろう。
「ああ、大丈夫だ。侑紀。お前は今、榊原侑紀じゃない。『青井水那』だ。」
侑紀の目が朧げになり、その美しい黒曜石が濁る。
「ぼくは、あおいみずな。」
ぼく?侑紀の一人称は“俺”だったはずだ。
意識が退行しているのか。
「そうだ。お前は青井水那だ。」
その瞬間、侑紀の瞳に光が戻った。
黒曜石がキラキラと輝き始める。
でも、その煌めきの下には何か迷いがあるような気がした。
俺はその時、思ってしまったんだ。
侑紀のその迷いの全てを知りたい、と。
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