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朝ご飯は、そのままいかに渋谷が苦労したのかと言う話だけで終わった。俺は別に同情するわけでもなく適当に聞いていただけ。それなのに渋谷は嬉しいという。何でもかんでもある程度の距離を取ったままでいてくれる俺が。
否定もしないし肯定もしない、ただそれだけなのに。それが良いなんて、どんだけ渋谷が悩んでいたかが伺えるというものだ。ちなみに、顔の良いファンがいる奴と仲良くしすぎると良くないらしい、なんでも呼び出されるとかなんとか。
だけど俺は渋谷曰く「髪の毛切ろう!絶対に可愛くなるよ!」という謎確信があるので呼び出されないらしい。意味は良く分からないので放っておこう、とりあえず身の安全が保障されているのなら良いや。
皿を洗うのは渋谷の仕事、これは本人自ら申し出てくれているので俺はその間に歯を磨いて制服に着替える。中学の時学ランだった俺はいまだネクタイ結ぶのが大嫌いだ、世には何でもワンタッチ式だとかっていう簡単なネクタイがあるらしい。それが欲しいけれど、いかんせんお金持ちがそろう学校だ。パーティなどがあるセレブな世界ではネクタイが結べないお坊ちゃまはいないらしい、残念だ。
ネクタイを後回しにして個人部屋から出れば、渋谷が個人部屋に入る前からリビングでTシャツを脱ぎ始めているところだった。いやもう毎回こうだからいいけどさ、最初は言ったけど直らないから放っておいている。
「あ、小虎ちゃんも一緒に学校行くー?」
くるっと振り返った半裸の渋谷が部屋から出てきた俺に呑気なことにそんなことを訪ねてくる。風邪ひくからさっさと着替えろよ、と言ってやろうとしたらプハッと吹き出し気味に笑った渋谷が傍へ寄ってきては持っていたネクタイを奪われる。
一昨日、ネクタイが結べないという事を言ったからか。気づいた時にはもうワイシャツの襟を通り抜けていくネクタイ。俺よりも背が高い渋谷が楽しそうにネクタイを結んでくれる姿は、見ていて不愉快ではない…愉快でもないけれど。でも楽しそうだからいいかという事にしている。
音を立てながら結ばれていくネクタイに気を取られていると「どーする?」と問われて、さっきの話を思い出す。
確かに早いんだけど、まぁ一緒に行っても別にいいか。早めに行って勉強していれば時間はつぶれるだろうし。
「一緒に行く。」
「マジ?やーった。」
渋谷が二ヒヒ、なんて笑ってネクタイから手を離した。下を向いて確認すればそこには綺麗に結ばれているネクタイ。渋谷はこういうやつだけど、ネクタイ結ぶのが上手だ。そこは尊敬する。
「じゃ急いで着替えよーっと!」と金髪を揺らしながら個人部屋に引っ込んでいくのは良いんだけど、扉くらい閉めればいいのに。半ズボンを脱ぎだした渋谷を見るのは無意味だから俺はつけっぱなしのニュースを見るためにソファに座った。丁度天気予報の時間となった、笑顔の天気予報士が「今日は快晴です」ときっぱり言い切った。
着替え終わった渋谷と二人で学校までの道を歩く、と言っても歩いて5分でついてしまうくらい近いのだけど…いや学校の敷地内だという事を考えれば遠いのかもしれない。
寮から教室までなら8分くらいかな、測ったことないから憶測ってやつだけど。でもそんなくらいかな。俺としては8分なら近い距離だと思う。ただ車に乗って移動するのが常識な世界じゃアレなのかもしれない。
渋谷は歩くのが嫌じゃないと初めて一緒に登校した時言っていた。渋谷の家柄はそんなにお高いもんじゃないらしい…って言ってもここに通っているくらいだから一般的な家庭の10倍は稼いでいるのだろうけれど。
この学園に通える人って言うのは相当お金持ちってざっくり言っているけれど、意外と庶民って人もいたりする。そういう人たちはスポーツや勉強で好成績を残している人たちだ。俺はどっちかって言うとソッチ、侑叔父さんは関係なかったらだけど。
金持ちの人はお金積むらしいよ、渋谷が言っていた。ただ渋谷の場合は死ぬ気で勉強して自分の力で入ったらしい、頭のいい金持ちって人はだいたい面倒くさがってお金を積むんだと。
なんていうか、生々しい。金で何とかなるなら世の中壊れているし永遠に江戸時代のままだろう。
「小虎ちゃーん、教室行くの?なんなら一緒に風紀室くるー?」
「悪い事してないのに風紀室行くのは嫌だ。」
どうでもいい事考えていたら、渋谷が思いつきだけで口にしただろうことにはキッパリNO。風紀委員の噂は至る所から聞いている。渋谷は風紀委員について先輩方が厳しいとしか言っていないあたり、話したくない事があるんだろうと分かる。
噂だと暴力で物事を片付けているらしい、委員の半数は不良で委員長と副委員長が不良のボスだとか。不埒なことをしている奴らを殴っては保健室送りとかって言うのは入学式から聞いてきた。
そんな黒い噂がある所には特別な用事がない限り行く気になれない、その辺言ったわけじゃないけれど渋谷は何かを察してくれたようで「で、すよねー…」と引き攣った笑顔で肩を落とした。…一人で行くのが嫌だから誘ったのか?
玄関について靴を履きかえても他の生徒と出会うことはなかった。多少早く来ただけなのにな。
上履きのスニーカーをしっかり履いてから廊下を見渡す、見事なほどに誰もいない…あ、事務員のお爺さんはいた。御年71歳の七井さんは今日も輝いている…頭的な意味でもありがたい存在的な意味でも。
七井さんに感動していると「小虎ちゃーん」と渋谷に呼ばれ振り返ると、朝ご飯の時に比べて元気が失われてきた渋谷がため息吐きつつ手を振った。
「じゃー後で俺の愚痴聞いてねー。」
「…手嶋の愚痴聞いた後に渋谷の愚痴聞かなきゃいけないのか。」
「あーそうそう、大介のこと慰めてあげてねー。」
そういうわけで、またね後でねー。
嫌そうな顔して中央階段を昇って行った背中に一応手を振って、俺は教室へ向かうべく東階段へ向かった。今日は快晴らしいんだけど俺の周りの人間は曇天らしい。
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