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イケメンな渋谷と手嶋、その二人に出席番号的な意味で挟まれた俺。浦島は二人に声をかけるついでに、二人に良くしてもらっている俺にも構うようになった。
どうにも「クラスで独りぼっちになりそうな奴にも気をかけてやっている」って感じ。人類みな友達なら他の感じで関わってこいよ。というか渋谷たちは友達と認めていないらしいけどその辺どうなんだろう。
とりあえずおはようと言われたから適当に頷き返しておく、俺は彼にどんなふうにかかわっても文句言われないからマシだ。手嶋のように名前で呼べとか先に行くなとかそういうのは一回も言われたことがない。
現に今だって、薄い反応の俺に「元気ないなー!」と元気ありすぎる浦島はそれだけ言ってまた手嶋に向かっていく。
俺はなんとなく気づいたよ、イケメンにモテるんじゃなくてイケメンに向かって行ってはイケメンが求めるものをことごとくあげているんだって。つまり、狙ってモテているんだと。ただ手嶋も渋谷もそうはいかなかった、ただそれだけのこと。
誰かは気付いているはずの答え、でも誰も言わないのは権力持ちに好かれた彼だから。理不尽だな、口にしないで心の中で呟いた。
もうすぐHRだしもう少しの辛抱、とぐったり弱っていく手嶋を見ていると後ろから聞こえてきた椅子を引く音。顔だけ振り向かせれば、こちらも疲れ切った顔が。
「いやー朝からすっごいね…。」
委員会から解放された目にも鮮やかな金髪に似合わないお疲れな顔、どうも渋谷は渋谷で大変な事があったようで。この二人に挟まれているとアレだね、愚痴しか聞けないんじゃないかな
「ただいま」と言う弱い笑顔に「おかえり」と返せば、嬉しそうに細められた黒い瞳。
朝からすごいって、まぁ浦島のことだよな。もう一度手嶋の方を見れば渋谷に気づいたのか「真樹ー」とSOS。おかげで浦島は渋谷に気づいて手嶋の肩から手を離した、仲がいいとこういうことしても許されるのか…と思ったけど渋谷が小さい声で「大介死ね」って言ったのが聞こえた、違うのか。
「真樹!おはよう!どこいってたんだよ!」
「あーうん、おはよう。どこって委員会だよー…。」
今度は渋谷へ大きな声であいさつ、もじゃもじゃの黒い髪がゆっさり揺れている。やっぱり噂通りカツラなのかな。
変装して学園に潜り込んできた族の総長なんじゃないか、とか風紀委員なみに物騒な噂があるのが浦島。ていうか浦島はいろいろ噂ありすぎてついていけない。纏めてみるのもおもしろそうだと思ったけど…時間と紙の無駄遣いかと気づいて辞めた。
あまり自分にかかわらないでくれ、と言う空気をばしばし出している渋谷にお構いなし。周りを巻き込むそのテンションのまま「朝から委員会か!?酷いな!」と委員でもないのに口出し。もう好きにしてくれ。
手嶋は標的が逸れたことにホッと一息もらし、俺と目が合うなりやっぱり苦い笑顔。こういう時でも笑えるから尊敬するよ。
もうすぐ先生が来るから、という理由で浦島を席に行くように何とか上手い事仕向けた渋谷に手嶋と拍手を送れば、手嶋には「てめー覚えとけよ!」と風紀委員らしい物言い。そして俺には、
「小虎ちゃんも見てないで助けてよー。」
「無理。」
机越しに飛びついてきそうだったので両手で大きくバツ印。あんなのを喜んで相手に出来るのは生徒会くらいだ。
嘆く渋谷を慰めもせず眺めていれば、静かに開かれる教室の扉。ひょっこり顔を覗かせたのは眼鏡が似合ううちのクラスの担任。岡元栄治(おかもとえいじ)29歳、背が高くて物腰柔らかな性格で人気の先生。見た目もさっぱり切りそろえられた清潔感ある黒の髪、ノンフレーム眼鏡が知的に見せてくれるけれどテニス部の顧問。
「ほら席に座って座って。高校生になって浮かれているのは分かるけど、もうすぐテストあるんだぞ。」
笑顔でそう促され「はーい」と返事しながら席についていくクラスメイト達。その中ではいくつか『テスト』という言葉に文句の声もちらほら。
始業式からまだ三日、この一週間後にはテストがある。結構成績には厳しい学校だからテストの回数も多い。といっても仮にも俺は中学を首席で卒業している、苦しむことはないだろう。
岡元先生が笑顔のままで朝の挨拶から今日の連絡事項を伝えていく間、私語はあまり聞こえてこない。さすが人気の先生と言ったところ、岡元先生は手嶋と同じく爽やかさを感じるけれど大人としての余裕も感じる。なんていうか憧れる気持ちは良く分かる…けど、俺は侑叔父さんみたいな人になるのが目標だからなぁ。
ぼんやり、侑叔父さんに電話しないと…と考え込んでいるうちに「じゃ、次は俺の授業からだな。」と岡元先生のHR終了のお声。次は岡元先生の科学からだったか、忘れてた。科学室に移動しなくちゃな。
「全員、忘れ物と遅刻するなよ。」
にっこり笑う先生は格好いい、教室中がちょっと浮かれた空気に包まれた。けれど俺の前方からは「うへぇー」と不満げな声。渋谷は岡元先生が好きじゃないらしい、と、此処で丁度良くチャイムが鳴った。
クラスメイト達が早速科学室へ行こうと立ち上がる中、先生が「あ、そーだ」と独り言なのか呟いて、教室中を見渡したかと思うと…ぱちりと俺に向けられた視線。目があった、この30数名のクラスの中で俺と。
「瀧野。」
「…はい。」
「お手伝い、頼まれてくれないか?」
偶然、ではない気がした。先生はきっと頼んでも断らない生徒を選んだと思う。その候補の中でただ一人、目があったのが俺だってだけ…だとは思う。
なんとも面倒なことを名指しされてしまった、面倒なことは嫌いだけど断って何か言われるのも嫌だ。俺は渋々頷いた。何を手伝うのかは分からないにしろ教室に帰ってこれる確率は低いと見た、なので先にペンケースと教科書とノートを持ち先生の元へ足を向けた。
教卓の前まで行くと小さい声で「ありがとう」と岡元先生が言う、曇り知らずの笑顔を前に文句を言えるようになるのは何か月先のことなのだろう…いや一生ないと思う。
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