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「紅茶でも大丈夫かな?」
「…はい。」
軍手とエプロンを岡元先生へ返却し、七井さんに「頑張ったで賞」として缶のオレンジジュースをもらった俺はどういうわけか今日会ったばかりの人に自己紹介もなく知らない部屋に連れて行かれた。
各教室どころか廊下や中庭などにすら選びぬかれたお高い物しか使っていないと知っていたけれど…この部屋はそれ以上だった。
最新モデルだろう精密な飾りがきらりと光る木製のデスクテーブルが四つ、その上には多忙さを表すかのように山積みになっている書類たち。俺が通された応接セット、いわゆるソファにローテーブルも本革使用の三人掛けが、シンプルながらに鮮麗されたガラス細工を中心にあしらえたローテーブルを挟んでいる。
靴を履いたままでいいのか迷う毛足の長い赤いじゅうたん、黒のカーテン、ファイルや本をしまっている鍵付き本棚風ロッカー…それらが並んでいるだけでも凄いというのに、この部屋はどうも給湯室があるらしい…チラリと覗いたら食器棚と冷蔵庫とコンロまであった。ちょっとしたキッチンのようだ。
カチャカチャと食器類がぶつかり合う音がソファに座っている俺にまで聞こえてくる、紅茶…はあまり好きじゃないけれど飲めなくはない。というかこの状況で断れるわけない。
「俺はー紅茶よりコーヒー派でーす。」
渋谷はそうでもないらしいけれど。
「君には聞いていないよ。」
俺の隣に座っているその様は背もたれに寄りかかってふてぶてしい。ここをどこだと思っているのだろう…キッチンから笑い声を含んだ回答に息を詰まらせてしまいそうで渋谷を見た。渋谷も、たまたまなのか俺を見ていて視線が合う、唇を尖らせていた同室者は俺の肩をポンポンと叩いて小さく笑った。
岡元先生と七井さんと別れ、中庭で会った…今キッチンで紅茶を淹れている先輩(渋谷が敬語を使っているし、この部屋的に…)は俺に話があると言った。立ち話で済ませられることじゃないから、と誘われているところに、渋谷が俺を迎えにきたのだ。
その時の渋谷の顔ときたら…『ゲッ、なんでお前がいるんだよ』って感じ丸出しで、先輩は高笑いした。なんていうか優しい先輩で助かったよ。
「おまたせ」と優しい声に正面へ向き直れば銀のトレーにカップを三つと角砂糖を入れた瓶、ミルクを入れた小さなポットを乗せ先輩が俺たちを見て笑った。
「二人きりじゃないのは予想外だけど、お話しようか。」
「あっは、お邪魔ですいまっせーん。」
「分かっているなら出て行ってもらって構わないよ?」
ガチャリ、トレーをローテーブルへ置いた先輩の顔はあくまでも笑顔。渋谷へ放った言葉は真っ直ぐで隠し事ひとつしていない。一つの意味だけを含んで一つの意味だけを伝えていくもの。
自分でも珍しいと思った、グッと喉に空気が詰まった。先輩の渋谷に対してのあからさまな敵対心に、つい体が強張った。俺の正面へ座った先輩は渋谷を見ていた…笑顔で。
なんかヤバい、そう思ったが、当の本人は図太い精神と毛の生えた心臓を持っているらしい。ハッと鼻で笑って見せては身を乗り出した。より一層近くでその笑顔を受け止めながら、渋谷も、綺麗に笑い返したのだ。
「じょーだーん…何が楽しくて小虎ちゃん一人で生徒会室へ行かせなきゃならないんですか?」
渋谷は風紀委員に入った、金髪が許されるという理由で。俺が知っているこの学園での風紀委員の噂の一つに…生徒会と風紀委員の噂がある、それは『風紀委員は唯一生徒会を罰せられる力がある』というもの。
生徒会は全校生徒の上に立つ存在だ、何せ生徒会に選ばれる方法は人気投票だから。周りにファンがたくさんいるから反抗するものは少なく円滑に自分たちの力を好きなだけ使える…しかし、それでもどこかで不平不満が生まれる。
だからこそ生徒会を取り締まる存在がいるのだ、それこそが渋谷の入った風紀委員。
そして今、俺たちはその風紀委員を毛嫌いしている生徒会の本陣、生徒会室にいる。
俺は良く知らないけれど、生徒会の一員らしい先輩は渋谷の笑顔に肩をすくめて、空気を持ち直すためかトレーの上に並んでいたカップを俺たちの前に差し出した。綺麗な紅い液体が注がれた白い磁器は絵になる。それを持つ先輩もまた、絵になっていた。
ジッと成り行きを見守っていると座りなおした先輩が「やれやれ」と息を吐き出して、俺に視線を合わせた。明らかに笑顔の温度を変えて。
「自己紹介が遅れたね、私は三年で副会長を務めている三条一雅(さんじょうかずまさ)だ。」
「…一年の瀧野小虎です。」
「風紀委員一年生の渋谷真樹っでーす。」
警戒心を消せず紅茶に手を伸ばせない俺と、相変わらずおどけた口調で紅茶に角砂糖を三つ放り込んだ渋谷。そして「ご丁寧にどうも」なんて自己紹介にお礼を言う三条…副会長。
時計の針は刻々、右へ回っていく。お昼休みはもうすぐ終わってしまう、午後からは一年生の身体測定という面倒なものがあるのに…あーぁサボりか、手嶋に何か言われそうだ。
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