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ずぞぞ、音を立てて紅茶をすすったくせに「やっぱコーヒーの方がいいー」とぼやいた渋谷はもう眼中にないのか、三条副会長は中庭で会った時のように足を組んで俺の目の前に置かれた紅茶を掌で促した。
確かに喉は乾いたけれど、この紅茶は飲みたくない…などと考えていただけに一拍呼吸を置いてから、頭を下げてカップの持ち手に指を通した。
紅茶の暖かさがカップを通して伝わってくる、なんてツンと刺さる暖かさなんだろう。ジンワリではなくて、肌にツンと…もしかして緊張で体温落ちていたのかも。恐ろしい話だ、火傷に気を付けながら紅い紅茶をそっと唇に触れさせてから、ゆっくり口の中へ流し込む。あぁ、香りが鼻へ肺へ抜けていく。
ほぅっと息を吐き出したら、小さな笑い声。紅茶で少しばかり暖かさを戻した俺に三条副会長が笑った声だったようで口元を紅茶を勧めた手で覆っていた。
「じゃ、お話しようか。」
緊張が解けなかった俺に合わせて話すのを待ってくれていたようで、足を組みなおし「大事なお話を」…そう前置きしてから三条先輩は弧を描いている唇を動かした。
「君は今月からこの麗城にやってきたんだよね?」
「はい、高等部から編入しました。」
「頭が良いんだってね、学年で一番だそうで…試験でほぼ満点を取ったって聞いたよ。」
三条副会長がそうだよね、と確認してきたが俺と渋谷はそろえて目を丸くさせお互いを見やった。
俺は、入学前に行われた試験でほぼ満点を取ったなんて知らされていない。それは今日行われるテストとあまり変わりないテストであり、俺のクラスを決めるためのテストだと聞いて「なんか細かいルールあるんだな…」と面倒になって気楽にやったものだ。
岡元先生は「あの結果」そういう言い方だった、良い点が取れたんだろうとは思っていたけれど…どうにも予想を上回っていたらしい。
信じられない、と言いたげな渋谷の視線には「俺も」と意味を込めて見つめ返しておく。まぁ…確かにそれくらい取れていたら今日のテスト行うだけ無駄なのかもしれない…もしかしたら普通に七井さんのお手伝いを探していただけかもしれないけれど。
結果を知らなかったことを俺と渋谷の視線だけの会話で、なんとなく察しただろう三条副会長が紅茶を一口飲みこんでから「すまない」と苦笑い。悪くない人に謝られるのは、どうしても罪悪感があるものだ。
「何はともあれそういう話を聞いたよ。」
「そう、ですか。」
先生たちの秘密を暴露してしまったところ、ちょっとまずいことに心当たりがあるのか三条副会長はその話題を少しばかり方向転換させた。それ以上の追及は許していないようだ、別に自分の成績について話すこともないのでありがたいところだ。
気を取り直し、眼鏡のブリッジを押し上げて三条副会長は笑った。さっきとはまた違う…ちょっと秘密の匂いのする、瞳が笑っていない笑顔。器用だ、笑顔だけでいくつもの意味を伝えてくるのだ、表情筋が仕事をしない俺とは違う。
指を組み膝の上に乗せた三条副会長の優雅さに、笑っていない瞳は酷くバランスが悪い魅力だ。それすらも自分の絵にしている姿は、ファンがいて当然と言えよう。
何を言われてしまうのか背筋をただして身構えてしまう俺、その隣で渋谷が膝に肘をついて頬杖した。
「その力を、貸してくれないかな?」
可哀想な生徒会副会長に。
チャイムが鳴った、何のチャイムか考える暇なかった。
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