アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
2の6
-
気分を変えるためか、ニコリと笑って見せてから三条副会長は何も言わず立ち上がって給湯室へ歩いて行った。見えなくなった背中をどう思う?と渋谷を見やれば「…なんか、想像よりすっごいことになってるっぽい」と視線を彷徨わせ、残っていた甘いだろう紅茶を飲み干した。
浦島のことは、いろいろ手嶋から聞いていたつもりだ。だけれどもそれはあくまでも『浦島のこと』であり『浦島の周りを囲う人』ではない。
どうにも浦島のせいで学園生活のリズムが狂いだしている人が少なくとも4人、いるようだ。会長に書記に会計、そして…副会長。
給湯室から聞こえてくる食器類のぶつかり合う音を聞きながら、四つのデスクテーブルを見た。会社などに置いてありそうな形ながら珍しいことにすべて黒い木で作られている。その四つすべての上にはこれでもかと積まれた紙、紙、紙。
今までの話を聞くに、三条副会長が俺にしたい話は見えてきている。だが理由は分からない、なぜ俺を選んだのかと言う謎が残っている…俺がこの学園から推薦をもらった時を同じように。
給湯室から戻ってきた三条副会長の手には、大きめのティーポット。「おかわりいるかい?」と明るく聞いてくるところを見るだけなら、この人の悩みや背負っている物なんて分からない。これが七井さんが言っていた『見せない部分』なんだ。
まだ少しだけ残っていたけれど問いかけに頷く、するとソファに座った三条副会長がティーポットを銀のトレーの上に置いて身を乗り出し顔を覗き込んできた。
「きっと頭のいい君のことだ、分かってしまったかい?」
なにが、なんて無粋な質問は許さないよ。
緑の瞳が揺るがない力強さで念を押してきた。
「どうして何も知らない俺なんですか?」
麗城学園に来て、二週間にも満たない奴を選んだわけ。渋谷が空気を飲み込む音が聞こえて、釣られて唾液を飲み込んだ。
生徒会と言う存在も学園のルールもSクラスと言うお高い集団も無駄にお金を使った道具の使い方も生徒たちの顔色も、何も知らない俺と言う赤ん坊を生徒会の滞った仕事を片づけることに巻き込もうとしているのは、見えてしまった。
こういうことを手伝わせるのなら、口が堅く学園のことを隅々まで知り尽くした人間の方がいろいろと融通が利いてやりやすくなるだろう。しかし三条副会長が接点のなかった一生徒にここまで話した、それも正確に俺にしようと狙いを定めてまで。
ちゃんと聞きました。
俺も出来るだけ瞳に意思を乗せて見返せば、三条副会長は眼鏡のブリッジを押し上げながら背もたれに寄りかかり笑ってくれた。
「第一に君には敵がまだいない。第二に頭と顔が良い。第三に口が堅い…さて、順を追って説明しようか?」
指を折りながら上げた三つの理由、三条副会長はゆっくり話し出した。
第一の理由、敵がいない。
この学園には見た目が良かったり成績が優秀だったりする生徒を崇拝しているケースが多い。崇拝対象は数え切れないほどいる、そしてその崇拝対象と仲良くしている生徒などは裏で呼び出しなどされて痛い目に会う事が大半。
小学生の時から同じ顔ぶれ、となるとある程度は誰が近づこうとしているなどと言う目星がつくらしい。つまりマークされる。
しかしこの学園にやってきたばかりの俺はまだそのマークがない、なので大きな親衛隊を持つ三条副会長と関わっても問題ない…とは勿論言いきれない。時間の問題だろう。
それを解決するのが第二の理由、成績と見た目。
成績は三条副会長が思わず暴露してくれたけれど、どうにも学園トップらしい。そして見た目は…良く分からないけれど大丈夫らしい。この学園において大事なのは三つ、見た目、家柄、成績。そのうちの二つをクリアできているのならマークされたとしても呼び出しなどの標的になることはまずあり得ないのだとか。
なにせ二つもクリアしていれば親衛隊かファンクラブが出来る確率が80%を超えるとか、俺は学園に来たばかりだから出来るわけないけれど。
そして第三の理由、口が堅い。
此処で見たこと知ったこと、一般生徒が知っていてはいけないものばかりだ。それを黙っていられるかという事だが、なぜ俺の口が堅いと言い切れるのか。
「岡元先生と約束しているじゃないか。」
「………って、それはもう渋谷にばれたようなもんじゃないですか。」
「え?なになーに?」
あの場面をたまたま見ていたらしい。それだけで口が堅いのかって思うのはどうかと思う。まぁどうしても秘密にしてくれって言われたら黙っているんだけど。その他にもあるらしい、けれど大まかな点はその三つらしい。
しかし、聞けば聞くほど…なんと面倒なことに目を付けられたのだろうとしか思えない。
生徒会の仕事を手伝う一般生徒なんているのだろうか、いや七井さんの話を聞く限りないだろう。どうやら前人未到の境地へ俺は招かれているようだ。
この学園に来たのはそんな偉業を成し遂げるためじゃない、普通に過ごせればいいなと思っていたのにどうしてこういう事に…思わず顔を顰めてしまう俺に渋谷が「断っちゃえ」と敵対している風紀委員らしいことを言ってくる。
改めて足を組んだ三条副会長は、ジッと俺を見ているだけ。それ以上余計な言葉を言う気はないと言いたげだった、おそらく俺にこんな話をするのは副会長として恥じとなりかねないだろう。それを覚悟の上で、俺に持ちかけたのだ。
仕事をしない生徒会、輝かしい歴史を持つ生徒会、生徒たちの憧れを一心に受ける生徒会…。
デメリットと、メリット。天秤にしてそれぞれの皿にのせる必要もない、面白くないほど傾くだろう。でも人間はやってみたいと思う時がある、ダメかもしれないけれど『もしかしたら』という言葉に面白さと希望を乗せるんだ。
「……そこまで言うほどです、タダじゃないですよね?」
重みに差がありすぎる、けれど傾きをある程度直すことは今からでも可能だ。ちょっと頑張るだけで結構変わる。
たとえば、俺が此処に来た謎が何か分かるかもって思えば…ほら、皿は床に着く事がなくなる。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
18 / 44