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ノックした扉は、案外あっさり開くものだ。
「真樹に手ぇ出されてないの?」
「手?殴られたことはないです。ハンコください。」
第一印象、ゴミとか壊れている物とか多い。
第二印象、髪の色がカラフル。
第三印象、委員長さんが意地悪。
意外なことに俺はもてなされているらしい。
生徒会室にあるソファに比べるとフカフカ感は少ないしゴミや雑誌が散乱しているソファに座らせてもらい、コーヒーなんて大人の飲み物を出された。クッキー付きで。
俺のノックに開いた扉、最初に顔を出してくれたのは渋谷と同じ髪の色をした二年生らしき先輩だった。垂れ目で口元にほくろがある、この先輩が俺にコーヒーを用意してくれた。中へ招かれたら、オレンジ色に髪を染めているこれまた二年生らしき先輩にソファに座らされ、クッキーをもらった。
そして、赤い髪の委員長さんが笑顔で向かいのソファに座っていろいろ話かけてくれる…ただし、俺が此処へ来た目的の話は聞いてくれない。
「なんだっけ名前、タイガーちゃんだっけ?」
「瀧野小虎です。ハンコください。」
「そうそう、チャイルドタイガー。コーヒーは嫌い?」
「コーヒーより紅茶、紅茶よりもココアです。ハンコください。」
「俺は龍崎な。そっちの金色が東間(あずま)で、オレンジが西浜(にしはま)ってーの二人とも二年。」
こういった会話をさっきからずっと繰り返している。委員長さんは楽しそうだから良いんだけど…あと床に座っている俺から見て左の前髪が長くて右の前髪が短い西浜先輩もさっきからうひゃうひゃと笑いっぱなし。
唯一顔色が良くないのは、金髪坊主の東間先輩。「龍さん、仕事してやってくださいよ…」と俺が座っているソファの後ろに立って背もたれに肘を置いてため息を零している。どうにも東間先輩は真面目な人らしい、助かる。
一応、ソファの間にあるローテーブルには例の書類を置いている。目に入る場所にあるのだ…けれど、委員長さんは視界に入れていないかの如く、触れてくれない。
もしかして副会長はこの委員長さんの性格を知っていて俺にハンコをもらって来いと頼んだのだろうか、恨みます。
書類は見ない…けれどさっきから委員長さんは俺をジッと見ている、西浜先輩や東間先輩が口を挟んでこない限り俺から視線をそらしてくれない。出してもらったコーヒーを一口飲みこんでいる、その間も。
廊下ですれ違った生徒たちとは明らかに違う視線は酷く重たい…そうか、これが威圧感だ。委員長さんも西浜先輩も笑っていて空気は軽いはずなのに俺に向けられるものは重く感じる。
「真樹を手懐けたって割には普通だな。飛び抜けて別嬪なのかと思ってた。俺に怯まないところは評価してやるよ。」
居心地の悪い理由、それは品定めだったのだと知るには十分な一言。
「…手懐けてはいないです。ハンコください。」
道理で見られているだけで重いわけだ、どうでもいい会話で試されていたってこと。
生徒会の補佐となった俺に学園の外からやってきたという甘えは許されないようだ、生徒会の補佐となった時点で委員長さんにとって俺は敵なのだろう。
持ちつ持たれつの関係と聞いていたけれど、事実は相手を選んでいるって感じだ。つまり新参者の俺は委員長さんに気に入ってもらわないと風紀の助けを受けられないのだ。
委員長さんが言った言葉に西浜先輩もニヤニヤとした笑顔を止めはしないものの笑い声を止めて俺を見ていた、西浜先輩にもそういう風に見られていたのだろう。
確かに別嬪と言う言葉には程遠い容姿をしていると自覚している、整えない黒い髪はぼさぼさで前髪が睫毛にかかってきたし、耳も半分近く隠れてしまった。怯まない、と言う点についても自覚している…それは昔から言われたことがあるから。どんな緊張する場面でも俺はいつも通りで居られる、それは父さん譲りの強い精神だ。
こうして敵地に一人、囲まれていようとも俺は俺で居られている。
「俺をどう見るのかは委員長さん次第ですけれど、仕事は滞りなく進めるべきだと思います。そういうわけでハンコください。」
ローテーブルに置いてあった書類を持ち上げ、風紀委員のハンコを押すためだけに空けられている空欄を指さし委員長さんに見せる。
その瞬間、薄くなってきていた軽い空気が完全に消え失せた。原因は委員長さんの笑顔が消えたから。
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