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緩みをなくし、一文字に引き結ばれた薄い唇。俺を見る赤い瞳が形を変えた、鋭く細められたかと思うと愉悦そうに歪んだ。目だけで笑うその様は獲物を見定めるもの。生かしておくべきか、それとも此処で芽を摘むか…委員長さんの判断次第で西浜先輩も東間先輩も俺を敵とする。
けれど俺は委員長さんの機嫌なんか取りはしない、馬鹿にされるのも疎ましく思われるのも構わない。どうせ俺が此処で殴られたって何も変わらない。
俺はハンコをもらうまで、この風紀室から出ないから。
ジッと、ただジッと。
見られ続けたから、俺も見返した。揺れることない赤い瞳を俺の黒い瞳で、揺らさないように見つめる。
誰もしゃべらないまま何秒経ったのか分からない、ただ沈黙を破ったのは
「浅海を知ってっか?」
委員長さんの短い声。
ソレをきっかけに姿勢を崩し行儀悪くローテーブルに足を乗り上げた委員長さんが、少しばかり口の端を持ち上げた。それだけなのにさっきまでの張りつめた空気がふっと力を抜いた、でも俺は視線をそらさずに委員長さんを見ていると背後から東間先輩の大きなため息が聞こえてきた。よほど緊張していたらしい。
それでさらに空気が和らいだ、西浜先輩が床に座ったままズリズリと俺の座っているソファの元までやってきて「クッキー食べちゃいな」と無邪気に笑ってくれる。
浅海。
渋谷が言っていた反生徒会のリーダーのこと…だろうか。
勧められたクッキーを口に運びながら委員長さんが言った言葉を頭に響かせる、同じ苗字の生徒がいる可能性があるけれど生徒会の俺に聞いてくるのだから俺の知っている浅海で合っているのだろう。
クッキーを噛み砕きながら、こくりと頷くと委員長さんはさらに笑顔を深め俺を見つめなおす、今度は綺麗に笑ったまま。ただ、今一度緊張感を取り持った雰囲気を纏ってはいる。
「どうあがいても、お前は浅海に狙われる。理由は簡単、生徒会に入っちまったから。チャイルドタイガー、喧嘩弱いだろ?浅海は喧嘩とギャンブルなら強え。真樹の同室者だし、助けてやらなくはねぇよ…勿論、タダじゃない。」
おそらく近い未来、委員長さんが言うことは現実になる。
それは俺も、反生徒会という存在を知った時から想像できたことだ。敵の勢力が大きくならないうちに叩いておきたい…組織の上に立つ者ならそう思うもの。副会長しか機能しなくなった生徒会なら叩くのは簡単だっただろう、でもそこにやってきた援軍…補佐と言う存在。
もしも俺が反生徒会の…浅海の立ち位置ならば…他の生徒たちからの支持を得る前のまさに今、入ったばかりの補佐を叩く。希望が見えかけ油断したところに攻撃、そして援軍を失った副会長に止めを刺す。それによって仕事を放棄していた会長たちが戻ってきたとしても、山積みの仕事や生徒会の現状を理解し持ち直すことなど不可能に近い。
それくらいなら俺も考えた、そして不良が多いD組にいるのだから浅海が喧嘩に強いってことも想像がつく。
俺は人を殴ったことなど無い。やってもデコピンとかしっぺとかくらい、暴力と言うものには縁がない。殴られる側になったこともない。
喧嘩が強く組織を引き連れている浅海と、喧嘩が弱く風吹けばつぶれそうな生徒会補佐の俺…有利なのは言わずもがな。
だけど、俺だって策はある。
「浅海という人は喧嘩が強いんですね。」
「認めたくねぇんだけど、な。」
「なら、その危ない牙を抜きます。」
俺は小虎と言う名前だ、鋭利な爪で牙で獲物を仕留める虎という強くて格好良い肉食獣の名前が入っている。でも虎には申し訳ない話、俺の爪は牙は「屈しない精神」と「勉強が出来る」だけ。虎に怒られてしまいそうな武器しかない俺、だからこそ同じ所まで連れてくる。
俺と喧嘩しても時間の無駄だ、何の得にもなりはしない。生かしておいても何もしてこないだろう…そう思ってもらう。そうして喧嘩するための牙を、抜く。
俺はあくまでも補佐、メインの戦力になろうなんて思いはしない。メインとなる会長たちをまずは連れ戻す、そして浅海と向かい合う。
簡単に言うならば、使い捨ての駒、そして使用者を守る盾。
「生徒会の面々には何としても戻ってきてもらいます。浅海に関しては牙を抜いて話し合いをします。委員長さん、今あなたにしていることと同じように。」
さっき、委員長さんは俺を見定めた。俺をどう判断したのかは知らないがその結果こうして話し合いに持ち込めている、それを浅海にも行う。これは単純かつ平和的な…そして危険なギャンブルだ。
ただ浅海の場合、睨み合いをして牙が抜けるとは思えない。委員長さんは生徒会補佐で外部からやってきた渋谷の同室者だから優しく見てくれているところがあるんじゃないかな、だからこうして俺と話し合いをしてくれているわけだ。
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