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「では失礼します。」
「おー。またおいで。」
委員長さんたちの笑顔に見送られながら、俺は風紀室の扉を閉めた。…そういえば扉に張られている紙や壊れている表札の事、聞けなかったな。そのうちでいいか。
どうにも風紀委員にはお世話になりそうだ。浅海が委員長の従弟、だから何か因縁があるらしい。
浅海に会ったことがないと言ったら「会わなくていいんじゃね?」と言われた、それでは牙を抜くことも話し合いをすることも叶わない。
まぁその前に生徒会に戦力を集めなくては…新入生歓迎会は狙い目だ、その時に何とか他の生徒会に接触してどんな人たちなのか確かめないと。
廊下を歩きながら今後のことを思うが雲行きはよろしくない。今まで見たことがないくらい曇天で未来を描くことが難しい。
一年前のようだ、あのときだって病院のベッドで自分の人生がどうなってしまうのか不安で仕方なかった。一人で生きていくなんてできないと絶望していた。未来なんて、見えなかった。
だけど侑叔父さんが助けてくれた、だから今回だって誰かが必ず道を示してくれるはずだ。いや、俺が道を示す番なのかもしれないけれど…とりあえず見えない未来に怖がり泣いている暇はない。
「あの頃に戻るのは、嫌だ。」
朝届いた侑叔父さんからのメールを思い出した。途端、会いたくなった。
「チャイルドタイガー、楽しそう。」
西浜が嬉しそうにそう呟いた、伸ばした指先が撫でるのはさっきまで瀧野が座っていた場所。ソファの革をサラサラと撫でる音が聞こえてくる。また西浜の悪い癖だ、気に入ってしまったのか?
確かに瀧野はすごいと思った、龍さんに睨まれても威圧されても臆することなく見つめ返していたのだから。俺なら速攻で逃げるね。だって龍さん怖ぇし…あ、瀧野って龍さんのこと何も知らないのか…だから逃げなかったのかもな。
瀧野が飲んでいたコーヒーは半分くらい残ったまま、ココアの方が好きっつってたな。今度来たときはココアを出してやるか…半分も残っているコーヒーがもったいなくて瀧野が口をつけていた場所とは反対のふちに口を寄せた。冷えて苦みを増した液体はまさに瀧野のようだ。
「西浜ぁ、東間ぁ。千佳と真樹呼んで。」
あぁ、あと今の龍さんの心境もこのコーヒーみたいな感じか。
瀧野がいなくなるや自分の机に戻り椅子に座ると、俺たちに背を向け窓の外を眺めていた。いつもならゲームしたりマンガ読んだりして適当に時間をつぶすところを、何か策でも練っているのか動くことなくジッとしていた。
俺は短く返事をして、西浜を見る。瀧野がいたから煙草型のシガレットで我慢していたようで、今は本物の煙草をくわえ火をつけていた。あんまり此処で吸うなよ、そう視線で訴えればウインクひとつ返された。
「俺は竹田探す。西浜は渋谷探せよ。」
「おけ。」
喧嘩してたりすると電話かけても通じない時がある、どの辺をうろついているのかは予想が出来る。だから直接探しに行った方が早い、俺はコーヒーカップをローテーブルに置いてこっちを向かない龍さんに一礼して扉のノブに手を伸ばした。西浜の煙草の煙が踊るのを横目で捉えながら、廊下へ出ようとしたその時。
「瀧野には期待してねぇよ、あいつは駒だ。」
無慈悲な一声、心がキシリと嫌な音を立てた。でも龍さんに何か言えるほど俺は偉くないし喧嘩も強くない。風紀委員の暗黙の了解、覆ることのないヒエラルキーを守ること。ついさっきまでそこにいた人間に、面白いと賭けてもいいと評価した人間に、『駒』だと言えるから龍さんが怖かった。俺もそう思われているかもしれないから笑えもしない、ただただ怖がるだけ。
あぁ嫌な言葉を聞いた、ノブを捻って扉をくぐった。西浜も慌てて俺の後ろについて一緒に扉を潜り抜け、扉を閉めた。
龍さんはやっぱりこっちを向きはしない。
「…チャイルドタイガー、浅海にやられるかに?」
「分かんねぇ。」
しょんぼりと肩を落とし、火をつけたばかりだった煙草を携帯灰皿に居れる西浜と同じことを考えながら渋谷のことも考えた。こういう時に限って見回りでいないから運のない奴だ、でもいなくて良かったのかもしれねぇ。
せめて怪我なく平和に済ませられたらいいのにな。俺もだけど…瀧野も渋谷も、龍さんも浅海も。そんで少しでも世界観変わればいいな、龍さんと浅海の世界観。俺はそこに期待しているんだけどな。
夕暮れが差し込んできた廊下が嫌に綺麗で、心の中の軋みが悲しいくらいにぬぐえない。新学期始まって早々、こんなことに巻き込まれるなんてついてないな。
一度だけでもいいから龍さんの頭の中を見たくなった、何を考えているんだろう。
2014/12/27
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