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一年、経った。
「傷、痛くない?」
「大丈夫、天気が凄く悪いと違和感あるけれど今日は普通。」
週末、俺は授業がないのに制服に身を包み学園の門の前で荷物片手に待っていれば、約束通りの時間に車がやって来た。侑叔父さんの愛車だ、今日はプライベートだからか水瀬さんは見えなかった、侑叔父さん自らハンドルを握っていた。
このあと仕事があるのか、侑叔父さんは黒い背広姿で学園まで来てくれた。それとも一周忌だから落ち着いたものを選んだのかもしれない。柄もないシンプルな背広、だからこそ使っている素材の良さが際立っている。
助手席に座れば、まずは伸びた髪を撫でられる。そして一年前の事故で負った傷の心配をされた。
「節目節目には痛がっていたから…心配だったんだ。」
事故から一か月しか経っていなかったときは、病院のベッドの上で泣き転げまわるほど傷と言う傷全てが痛くなったことがあった。二か月しか経っていなかったときは、泣きはしなかったものの痛みに起きあがることが出来なくなった。
完璧に傷が塞がり、侑叔父さんの家へ引っ越してからもソレは何度も起こった。三か月、四か月、五か月…そして天気が荒れた日、両親の夢を見た日など色んなことを引き金に起こっていた、今は天気が酷く荒れた時だけになったけれど。
今日は節目の日…去年の今日、俺は両親と出掛け事故にあった。
頭を撫でてくれる手に込められた力の強さに侑叔父さんを見れば、整っている顔を歪めていた。八の字になっている眉、伏し目がちな黒い瞳、何か言いたげな口。
「むしろ今日は大事な日だから、大丈夫なんだよ。」
制服をわざわざ着て会いに行くのは、俺が此処まで成長したってことを父さんと母さんに教えるため。まだ着こなせていない大きめの制服姿を二人にはまだ見せていない…いや空から見守ってくれているのなら見てくれているのかもしれないけれど、眠る墓へは今日が初めて。
辛いことも痛いことも大変なこともたくさんあった、どちらかと言えば暗く苦しんだ一年だと言える。それでも救いも喜びも楽しさもあった。
頭を撫でてくれる侑叔父さんの大きな手を握って、真っ直ぐ見つめ返す。心配させたくて麗城学園に来たんじゃない、侑叔父さんのお蔭で道を切り開けるようになったんだと御礼と恩返しをするため。
「……そっか、そうだな。じゃあ着くまでの間に友達のことや学園のこと、教えてもらっちゃおうかな。」
「うん。昨日メールで送った写真の、金髪の方が渋谷で茶髪の方が手嶋っていって…」
少し長くてだれてしまうドライブ中、居眠りせずに済んだのは友達のお蔭だ。恥ずかしい話、霊園へ着くまでの間ずっとずっと渋谷や手嶋…学園で関わった人たちの事ばかり話した。ソレを侑叔父さんは相槌をうちながらいっぱい聞いてくれて。
その時、俺は恵まれているんだと心臓あたりが暖かくなったのを感じた。幸せ者なんだと。
そう、幸せ。
「やられた。」
寮のとある部屋、静かな空間で彼はそう呟いた。
日中であるにも関わらず遮光カーテンで部屋にある窓と言う窓を塞ぎ、一つの光源だけを残し部屋は暗闇の中。
デスクの上に置かれているノートパソコン、それが目の前に座る男の顔とあたりを適当に照らしている。照らされる顔は、苛立ちに犯されていた。パソコンの画面に表示されている文字の羅列、見据えては舌打ちを一つ。
「潰れさせはしないって?…さいって。」
せっかくいい感じだったのに…誰も聞いていないのを良い事に、普段では出さない低い声で苛立ちを超え行き過ぎた感情を隠すことなくさらけ出す。彼の計画は確かだった、もうすぐ描いた通りの彼にとってのグッドエンドを迎えるはずだった…のに。
完成間近、秒読み、確定的…その油断から数日間、生徒会の監視を辞めていた。
そうして余裕ぶっていた所に降り注いだ噂に嫌な予感がし昨日の夜から生徒会のパソコンへ忍び込み、ここ最近の動きを探れば案の定。
予測していた結論に辿りつくまであとたったの二週間だけだったのに…油断していた自分も悪いと言えば悪いが、突如として湧き上がった存在が憎くてしょうがない。
「何のためにあんなくだらないお遊びに付き合っていると思っているんですかねっていう?」
デスクに肘をつき怪我一つない指を組み、顎を乗せる。その優雅な仕草に不釣り合いな言葉と感情を隠さない顔で画面を睨む。
画面に羅列している文字の中に埋もれている名前…三条一雅と瀧野小虎。崖っぷちに追いやられた生徒会を牛耳っていると言っても過言ではない副会長と、今年から麗城学園にやってきた外部の人間。
二人が真面目に生徒会の仕事をしている間、彼は浦島とそして浦島を囲う数人の生徒とともに時間も忘れ優雅にお茶会なんてものを楽しんでいた…彼の提案で。
事ある事に色んなことを浦島に提案しては、浦島に執着する者たちを誘導していく…今の生徒会に目を向けないように。浦島は彼に懐いていた、だから何を提案しても喜んでくれる。計画を円滑に勧めるために使われているとも知らずに。
もともと人付き合いは嫌いで、出来ることならば一人で生きていきたいとも思えた。しかしそのためには誰にでも命令できる安定した上の地位にいることが大事である。
人に媚を売るのも嫌い、仲良く手を繋いで頑張りあうのも嫌い、地味で細かい作業も嫌い。
だから考えた、楽して上へ行く方法。
副会長が過労で倒れる直前に適当なことを言って仕事に戻る。適当に仕事をこなしながら生徒会を壊滅寸前であることを明るみにすれば、会長は責任を問われることになる。
そうなればリコールになるだろう、でも直前に副会長とともに仕事をしていたという事実があれば、リコールを逃れられる道が作れる。そこまで持ち込めたらあとは消去法だ、会長は解任、副会長が繰り上げで会長になっても疲労困憊の状態ではろくに動くこともままならない、書記は女王様気質だ、女王アリで居るのは好きだが働きアリになんかなりたくない。今まで散々吸った甘い蜜…浦島との穏やかな日々を追いかけ続けるだろう。
そうなれば、会計の自分は少なくとも副会長の座くらいはいただける…はずだった。
思っていたよりも計画は狂っている、急に現れた補佐の存在がすでに生徒たちに知られている以上…自分が仕事をしていないことがすでに知られている可能性がある、こうなるとリコールの対象に入ってしまう。
「これじゃ意味がない。」
暗い部屋の中で麗城学園生徒会会計、2年S組の叶野幸仁(かのうゆきひと)は忌々しそうに画面にある瀧野小虎の名前を撫でた…爪を立てて。
狂った計画はしっかり元に戻す、そして新たな計画を作り上げる。根元が黒くなっているオレンジ色の髪を束ねていた白いシュシュを外し、パソコンをスリープさせ椅子から立ち上がった。デスクの奥にある遮光カーテンを引いて隠していた窓から日光を取り入れれば照らし出される…。
「慰謝料貰わなきゃっていう?」
ノートパソコンの横にあるデスクトップパソコンを起動させれば壁という壁につけた棚にはいくつものモニターが起動し始める、それは学園の敷地内にある建物の中全てを映し出していた。
監視カメラをハッキングしたのは早いもので中学生の時…見ているだけで誰が何をしているのか知れることに「楽」を感じた。それ以来部屋はこんな有様。学園のすべての教室、寮の廊下、中庭…数秒経つごとに切り替わるモニター達に笑みを浮かべる…見ているだけで、秘密が手に入る。
にんまり笑顔のまま、生徒会室に備えつけられた監視カメラの映像を大きなモニターに映し出す。そこには休みにも関わらず制服姿で書類に向かっている副会長、三条の姿があった。
「楽してこその俺なんですよ、三条副会長。」
2014/12/31
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