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ゴールデンウィーク前の土日、俺は久々に侑叔父さんの家に帰った。土曜日に墓参りに行き夜は二人でご飯を作ったりいろいろ話し込んだり。日曜日は水瀬さんも来てくれてわざわざ学園へ送ってくれた。
侑叔父さんと水瀬さんに囲まれた世界、それは少し前の俺にとって当たり前の世界だった。でも今はそれが懐かしかった、俺に笑ってくれる二人の笑顔に暖かくて優しくてホッとさせられる。
学園の門をくぐる前に後ろを振り返ったら、車から降りていた侑叔父さんが手を振ってくれていた、水瀬さんも運転席から小さく手を振ってくれていて。難しい言葉とか思いつかなかった、ただ単純に嬉しかった。
俺と侑叔父さんと水瀬さんの世界、怖いもの全てから守ってくれる優しい世界。確かに居心地良かった。けれど今の俺がいるべき場所は、そこじゃない。
「小虎ちゃーん!おっかえりー!!」
「…ただいま。」
インターフォンを鳴らしていないのに部屋の扉の鍵を開錠した途端、渋谷が扉を開いた。数分前に「もうすぐ学園に着く」とメールしたせいだろう…もしかしてずっと待っていたのだろうか、そんな事していなくていいのに。一緒に暮らして数週間、いまだ同室者の不思議は消えない。あ、俺が世間からずれているだけかもしれないけれど。
とりあえず侑叔父さんにお友達とお食べ、と持たされた紙袋を渋谷へ差し向ける。そんなの友達にあげたって遠慮されてしまうのがオチだと言ったんだけど無理やり持たされたものだ。侑叔父さんはクッキーだと言っていた、「お土産のクッキー」と一言添えてやると、渋谷は目を見開き首をぶんぶん横に振った。
「そんな気ぃ使わなくっていいのにぃ!!」
「俺もそう言ったんだけどね。」
そういう性格なんだ、と適当に言って今度は俺が渋谷に無理やり持たせる番。胸元に押し付けて荷物を持ち直し部屋の中に入った。行きは制服を着て行ったからローファーが良く似合ったが、今はただのデニムにTシャツとパーカー。浮きまくりのローファーを雑に脱いだ。
渋谷のことを放っておくそのままの勢いでズカズカ廊下を進んでいくと、背後から扉を閉める音と「ひきょーものー」と恨めしげな声が聞こえてくる。気にしないけれど。
昨日いなかっただけのリビングには買い食いのあとが残っていたけれどそれ以外は汚れていないようで少し安心した、特にキッチン。赤い液とかで汚れていたらどうしようかと不安だった。徒労に終わってくれて良かった。
着替えなんかを詰め込んでいた荷物をソファに置いて伸びを一つ、ぐーっと天井に向かって腕を伸ばせば肩の骨がぽきぽきと良い音。ずっと車の中だったから体が軋んでいる、首もくるりと回してみればぽきりと音が鳴る。
そんな俺を見て渋谷が笑った、クッキーを入れている紙袋をテーブルに置いて座りな、とでも言うように空いているソファをポンポン叩いた。
「お疲れ様ー。家族は元気だった?」
「…うん、変わっていなかった。」
渋谷に甘え、ソファに座りながら『渋谷には家族に会う用事があるから外泊許可を取ったと言ったんだった』という事を思い出した。
別に両親がいない事や侑叔父さんが今の保護者である事を恥じいてはいない、喜怒哀楽が出やすい渋谷に『叔父さんと両親の墓参りに行く』と言ってしまうとしんみりされてしまいそうで嫌だったのだ。渋谷にはそういうのが似合わないから。
少しばかり返事に遅れてしまったが、渋谷はおかしく思っていないらしく「良かったー」と笑顔で隣に座った。この話題は嫌だな…と考えていると渋谷が笑顔のまま、
「俺さー、家族と仲良くないんだよねぇ。だから小虎ちゃんが家族と仲良いと嬉しいー。」
なんて、言った。
思わず渋谷を見れば至って普通そう、よく見る柔らかな笑顔だった。俺が変なのか?と返事もせずに居れば「この学園じゃ家族と不仲な奴は多いよー」と付け足される。そこで思い出す、あぁこの学園は中等部から寮に入るんだったと。
家族と仲が悪いから離れたい、けれど年端もいかない子供では一人暮らしなど夢の話。しかし麗城学園ならソレを叶えてくれる。名高き麗城学園は将来誇れる学歴となる、なにより寮生活で家族と離れられる。
渋谷もそうなのだろう、実家がどういったところなのかは知らないけれど深くは尋ねずにただ軽く「そうか」と言った。本当は何か聞いてやるべきなのかもしれないけれど…渋谷は『何も求めないし肯定も否定もしない瀧野小虎』を求める時がある、今がそうなんだろう。
俺に話したくなった、そんなときまで俺は待つだけ。決して踏み込まないで何もしないで、待つだけ。
人間は他人に隠しておきたい事がいくつかある、たとえば本性とか性癖とか過去とか。
「…今日の晩飯、何にする?」
「えーとねー…あ、魚は?」
「煮る?焼く?」
「モチ!焼き魚!!」
だって俺も、渋谷に事故の事を隠したまま。
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