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俺たちの冷蔵庫に魚は入っていない、肉なら冷凍してあるけれど魚はない。そういうわけで少し休んでから二人そろって買い物へ行くことにした。だぼだぼのジャージにTシャツ一枚なのに髪型はちゃんと整っている渋谷と、パーカーの代わりにカーディガンを着た疲れた顔の俺…少しだけ凸凹な二人。
お互いスニーカーを履いて鍵を閉め、エレベーターに乗った…そこで、俺のデニムのポケットが震えた。正確に言うとポケットに入れていた携帯が震えた。
常にマナーモード状態の携帯からの止まない震えに渋谷がエレベーターのボタンを押して扉を閉めているのを横目に携帯を取り出す。侑叔父さんかな、と軽い気持ちで液晶を見てみれば…見慣れない文字。
「…三条副会長。」
「えっ!?ちょっと小虎ちゃんいつの間に副会長と番号交換しちゃったの!?」
驚きのあまり液晶に並んでいる文字を読んでしまえば、この間からやたらと副会長を敵視している渋谷が傍へ寄ってきて携帯の液晶を覗き込んだ。
ブルブル震え続ける携帯をわなわな震えながら指さした渋谷、なんていうか変な顔になっている。口が開いているぞ。なにか急ぎの用かもしれない、何か言いたげな渋谷にくるりと背を向けて通話ボタンを押す。
その途端「ちょ、俺という男がいながら!!」なんていう渋谷の声がエレベーターいっぱいに響いたが気にせず携帯を耳に当てる。空いているもう片方の耳は手で塞ぎ、電話に集中できるようにする。そういえば電話なんて最後にしたのはいつだったかな…侑叔父さんが入学したその日にしてきた以来かも。
「もしもし、瀧野です。」
『あぁ。休みの日にすまないね。』
「いいえ。」
最近耳に馴染んだ伸びのある低めの声、それだけで名乗られなくても三条副会長その人だと分かる。俺の背に張り付いてきた渋谷は無視。もしかして話聞き出そうとしてるのか?子供みたいなことしているな…。
エレベーターが軽く揺れ、下降するのを停止した。ランプがついている階数を見ればスーパーのある一階に到着したと告げてくれる。着くときは軽やかなベルの音で教えてくれるのだけど今は聞こえなかった、でも代わりに副会長には聞こえたらしく『出掛けている最中だったかな?』と笑いを含んだ声で聞かれる。その通りなので軽く肯定しておく。
「そうですけど大丈夫です。」
「大丈夫じゃないですー!小虎ちゃんは俺とー…」
「晩飯の買い出しに行く途中ってだけです。」
変なことを言われると話が進まない、しょうがないので耳を塞いでいた手で渋谷の腕を捕まえ開いた扉の方に歩く。休みの日だからかエントランスにはたくさんの生徒たち、買い物を楽しんでいたり立ち話をしていたり様々だ。
エレベーターを出るなり渋谷の腕をぺいっと捨てて一度携帯を顔から離し「電話している最中だから話すな」と子供に言い聞かせるような口調で頭を叩く。軽くだけど。
学園の生徒たちに人気があって何かと目立つ渋谷を叩くという事はすごく目立つことなのだが、副会長からの電話なので仕方ない。キッと一睨みして改めて携帯を耳に当てる……と、生徒会補佐になってからたびたび聞くようになった副会長の高らかな笑い声が聞こえてきた。全部筒抜けだったらしい。
『あっはっはっはっはっ!君たち、親子みたいだね!』
「……お恥ずかしい限りです、用件は何でしょうか。」
『あぁ、忘れるところだったよ。明日の朝、生徒会室に来てくれないかい?』
「朝、ですか?」
『君の分の生徒会室の鍵、やっと用意できたから渡したいんだ。』
生徒会室の鍵。
役員と顧問、それと校長だけしか持っていない特別なものだ。今まで俺が生徒会室へ行ったら副会長が先に居たし、帰る時は俺の方が先だったから困ったことがなかった。これからもそれでいいか、と思っていたのだがどうやら手配してくれていたらしい。前に少しその話をしたとき、会長と顧問と校長の許可が必要で面倒なのだと話をしていた。
だから用意されるとは思っていなかった、さてはてなにか訳がありそうだ…と考えていると背中にまた渋谷が張り付いてきたのと同時に副会長が小さな溜め息。
『ゴールデンウィーク、私は実家に帰らなくちゃいけなくてね。それなのに新入生歓迎会はゴールデンウィーク明けてすぐだろ?』
「あぁ…なるほど。」
つまりはただ単に「副会長が留守の間、仕事が出来るようにするために用意された鍵」というわけか。簡単に理解した俺にまた副会長の笑い声。それが聞こえたようで渋谷は小さい声で「なんか嫌な話してなーい?」と訪ねてくる。俺、聖徳太子じゃないから同時に話しかけないでほしい。
とりあえず明日の朝、生徒会室前で。それをもう一度確認してから電話終了、携帯をポケットにしまいながら後ろを振り返れば渋谷の金髪が目に痛い。唇をわざとらしく尖らせて目が合うなり頬を膨らませた渋谷が一層体重をかけてくる。渋谷の方が身長高いから苦しい、思わず丸くなる背。
「こーとーらーちゃーん…俺とのデート中によそ見とかー…」
「生魚を買いに行くデートが流行っているのか?」
「……ううん、流行ってないし未来永劫流行らないと思う。」
渋谷にしては難しい言葉を使ったな、と軽く感動しながら背中に張り付いたままなのを止めさせてスーパーへ向かった。今日は何の魚が売ってんのかな…ホッケとか食べたい。
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