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今夜は唐揚げにした、理由は簡単だったから。部屋に帰ったらもう18時になっていたから制服のまま作って食べて。渋谷には「この後副会長と大事な話がある」と適当に言った…ら、予想通り。
「夜に会うなんて…!ダァメッ!!俺も一緒にー!!」
「生徒会の話だから無理。」
「小虎ちゃん俺に冷たすぎー!!」
副会長を目の敵にするのはやめてほしいものだ、あと口の中に白米を入れている時に喋らないで欲しい。何粒か俺の方に飛んできたじゃないか。
何を心配しているのか良く分からない渋谷と話すのは非常に難しい(お互い論点がずれていくから)、なので帰りにコンビニでアイスを買ってくることを一方的に約束して俺は皿を下げ歯を磨いて、そそくさ部屋から飛び出した。
出来ればS階について聞きたかったんだけど、あんな状態だから聞けるもんも聞けやしない。気軽に行ける場所じゃないという事は知っている…だから困ったものだ。
副会長に会いに行くというだけであれだけ非難轟々なら…素敵な手紙をもらったからと正直に話していたらどうなっていたことやら。部屋から出るどころか、リビングから出ることも許されなかったかもしれない。今一度ポケットに手を入れて、手紙をだし広げてみる。改めて見ても…行き方や差出人のヒントはない。
とりあえずエレベーターに乗ればいいのかな、単純に上へ行けばいいんだろう思考。最上階だし。五基もあるエレベーターの扉が並ぶエントランスまで行き、上向き矢印のボタンを押した、
「あーそれじゃダメっていう。」
そうしたら、エレベーターが到着したことを教えてくれる軽やかな音に被せ向けられた声。淡々と発せられた声は俺よりも低く勢いもない、もっと言えば寝転がっているのか?と思わせられるくらい脱力させられる声。
背後からかけられた声、振り返ってみれば最近見た色の髪がユラリ揺れていた…あ、西浜先輩と同じ色だ、オレンジ色。綺麗に染められているオレンジは長い髪は女の子のようにポニーテールされていた、しかし根元約五センチくらいは黒い。
学校指定の黒に赤のラインが入っているジャージのズボンを履いているのに、上は不釣り合いなワイシャツと黒のカーディガン。なんというか、凸凹している人だというのが第一印象。
目尻がしなりと垂れている瞳はさっきの声のイメージ通りだ、その黒い瞳は俺をジッと見ていた。
というか、さっきなんて言った?
『それじゃダメ』?初対面の人になぜそんなことを言われなきゃならないのだ…と、考えたところで前に副会長が教えてくれた話を思い出した。それは生徒会のメンバーの特徴について、だ。
大宮会長は黒い髪に青い瞳、若咲書記は蜂蜜色の髪に茶色の瞳、叶野会計は…『オレンジ色の髪に黒い瞳』
俺が最上階へ行こうと上矢印のボタンを押したことにダメだししたという事は、俺が行く場所を知っている人。
「手紙をくれたのは、貴方ですか?」
「おー。頭の回転良いね。」
たった一つ聞いただけで、垂れ目を細められた。楽しげに唇を緩ませたその人は俺の隣に来て、さっき俺が押した上矢印が書かれたボタンではなくて『下矢印が書かれたボタン』を押した。上に行きたいのに下?前髪の合間から見える黒い垂れ目を見たら、笑みを消した眠たそうな顔を向けられる。
なのに…なのに、馬鹿にされているのは良く分かった。こんなことも知らないなんてって顔。それは俺がたまにされたことある顔だ、学園内での常識と俺の中の常識、その温度差を見せられる顔。
「S階は一階からしか行けないっていう。」
それなのにこの人は馬鹿にしていることを隠し「知らないんじゃないかと思って迎えに来て正解。」と言い、昇る為にやってきたエレベーターを見送った。
エレベーターの扉が閉まることを知らせる音を聞きながら小さく頷いた、迎えに来てもらわなかったら約束の時間には間に合わなかっただろう。そのあたりはちゃんとお礼を言うべきだ、でも今は…言わない。俺は名前を名乗りあっていないし僅かしか話していないのだけど…感じていた。
(この人は頭が良い人だ…それも、嫌な方で。)
成績が良いって意味の天才はどの世界でも迎え入れられる存在だ。でも目の前にいる人はそうじゃない、悪巧みが得意な天才だ。蚊帳の外にいるフリしては利を得るタイプの人間だ。そういう人が、一番厄介なんだよ。
この人の牙を抜くのはひと手間どころじゃないな…今日の帰りが遅くなることを予感しながら、下がるためのエレベーターがやってきたことを知らせる音を聞いた。
開かれていく扉に吸い込まれるように入っていく天才は、髪を躍らせながらくるりと俺の方を振り返ると首を掻きながら今更ながら正体を明かした。
「俺、叶野幸仁(かのう ゆきひと)。2年S組で生徒会会計…で、手紙の差出人っていう?」
「瀧野小虎です。1年A組です、この間から生徒会補佐をしています。」
「三条副会長の口に乗せられたんでしょ?かぁわいそー。」
渋谷とは違う意味で軽い口調には、悪意がこれでもかと込められていた。言葉に押されたのは初めてかもしれない、ぐっと肩を押されたかのような錯覚に負けないようにエレベーターの中に入った。馬鹿にされるのは慣れている、でもなんだろうか、この人の言葉は他の意味が籠っていて怖い。
ただ単に生徒会の事に巻き込まれたことを馬鹿にしているんじゃない、裏があるって分かるように言ってきている。
というか生徒会が酷い状態になっていることを知っているのか?浦島に夢中になっている生徒会メンバーは何も知らないんじゃないのか?
1階のボタンを押し、閉まった扉。それを見てから叶野会計は結っている髪を触りながら俺の顔を覗き込んできた、真黒の垂れ目がジッと俺のことを映しこむ。嫌そうな顔した自分と目が合って顔をそむけようとした、時。
「お互いを利用し合わない?」
低い囁き、鼓膜にこびりついた。
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