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叶野会計は、D組だったとまず話し出した。
元々家が俺と同じいたって普通の家庭であった叶野会計は、ピアノの腕でこの学園にやってきたそうだ。しかし勉強や運動といった部分ではやる気がなくてはやらない、というスタイルだったことから最低評価を受けた。そのため小等部からずっとD組にいたそうな。
それは中等部に入ってからも変わらず。でも友達もたくさんいたし笑顔が絶えない生活でD組の教室に根を張った。ただ単に楽しいという理由で。しかしある日…同学年のS組の生徒に言われた言葉がすべてを変えた。
『D組にいるなんて…死んだ方がマシ。』
蝶よ花よと大事にされているS組は、それはそれは成績優秀で才能あふれる人がたくさんいる。それは叶野会計も良く分かっていた、だからこそ憎かった。才能や成績、見目が良ければ何を言っても何をしても許されると思っているのが悔しかった。
D組の良さも何も知らずに侮辱されること、それが叶野会計は許せなかった。
「もー、死ぬ気でやってやった。」
やる気になればやる気になるほど、叶野会計はいい成績を残した。張っていた根を切り落としD組を抜け、C組B組を駆け抜けA組になったのは中等部三年の春。そこからは周りを味方にして登り詰めた、生徒会に入ってS組へ入った。
叶野会計がS組で生徒会にいるのは、そんな偏見をもつ生徒を見返すため。今だって叶野会計はD組の生徒と繋がりを持っているという。今も根は、D組に残したまま。でもそのためにはまだ足りない、上へ上へ行かなくてはまだ足りない。
そこに現れた、浦島太陽。
会長と書記の心を奪うだけではなく、他の人たちの心も奪い暴れる存在は叶野会計にとって非常に役立つ存在となった。自分の上にいる会長と書記がいなくなればその分立ち位置はくり上がる、なら残っている副会長もいなくなればさらにくり上がる。
勿論自分も無傷では済まない、だからこそ最大限の防衛はする…一人生徒会で奮起する副会長が過労で倒れる直前に生徒会へ戻る。しかしそれは公に生徒会を壊滅寸前であることを明るみにするため、そうなればリーダーである会長は責任を問われるから。
こうなると…第三者、風紀委員と教師による調査が入り事実関係が明るみになり次第…職務を放棄していた面々はリコールの可能性が出る。
自分も遊んでいた…だけれども副会長とともに仕事をしていた証拠を残しておけばリコールを逃れらる可能性を生み出せる。これが防衛。
と、くると…あとの計算は簡単、会長はリコール、副会長がスライドで会長になる…としても疲れ切った副会長など役に立たない、書記はどうせ逃げる、そういうやつだって知っている。
さて此処で問題だ、この計算を使うと叶野会計は何処の地位に納まるか。
「副会長、および会長の体調次第では会長代理ですね。」
「ご名答。」
しかしそれはあくまでも登場人物が五人の時に限る計算だ、叶野会計、大宮会長、三条副会長、若咲書記、浦島太陽。では現実はどうだ?そう、あと一人登場人物が足りない。
「君だよ、瀧野小虎。」
突如として湧いて出てきた生徒、補佐に収まった生徒。その存在は最早学園の全体へ知れ渡っている。こうなると計算式は狂う。
負担が軽くなった副会長はまだ深刻な人手不足ではあるものの、少しばかりは楽になる。疲労困憊とまではいかなくなる。そして補佐の仕事ぶりは風紀も目に止めていると来た、こうなると叶野会計が生徒会へ戻っても回答が変わったものになる…三条副会長と叶野会計の間に、補佐が入るのだ。つまりこのままでは得られる地位が、一つ上がっただけの書記止まりで終わる。
D組のために上へ登る、しかし会長の座を得るのは三年生になってからとなると遅い…なぜなら、今D組では叶野会計も驚かされた動きが見られているからだ。
それは浅海の存在。
「浅海って俺と同じくらい頭が良いっていう。けど昔事件起こして、万年D組を言い渡されてさ。もちろんそれが理由で反生徒会なんてことやっているわけじゃないっていう。」
「生徒会がやっていることに反対しているからですか?」
「三年の鳩羽(はとば)っていう浅海の上にいる奴が浦島太陽に惚れちゃったっていうのと、生徒会の連中がサボっているって気づいたから。」
D組の地位改善のためにD組から離れたというのに、浅海が生徒会を敵にし喧嘩を売る準備を進めている。それでは今までやってきたことがゼロどころかマイナスになってしまう。だからこそ自分の地位を上げ生徒会の方針変更をするしかないと思い立ったのだ。
大宮会長の目を覚まさせてやろうかとも思ったらしいが…大宮会長の意思は固かったし浦島があーだこーだと騒ぐものだから時間がかかるこの方法を選ぶしかなかった。動いてくれないのなら追い込み追い出すだけ。
それに浅海の反生徒会の動きはそこまで大きくはないだろう、と叶野会計は口にした。結局は鳩羽の指示なく生徒会に喧嘩を売れば、自分が抜けている間に下の者たちが動いてしまったと鳩羽が気づき戻ってくるんじゃないかという意味があるらしいからだ。
鳩羽は浦島を通して大宮会長たちと親交を深めているらしい、犬猿の仲らしいけれど。荒治療もいいところだ、話を聞けば聞くほど会ったことがない浅海と言う人間像が歪んでくる。
浦島に夢中になって生徒会から離れている大宮会長と若咲書記、同じく浦島に夢中になって浅海たちの元から離れている鳩羽…境遇は、同じなのだ。
「俺は浅海たちの行動阻止のため生徒会及び風紀に現状理解を求める、原因を辿り改善すれば何事も円満に解決するっていう。」
「それとD組に対する地位改善のために叶野会計自身の役職を上げることですか。」
それが利用し合うために提示された条件。
内容は非常に重い、しかしその内容を考え直せば俺にとって特になる物ばかりだ。実際浅海の動きには困っている、そして浦島の事にも困っている。生徒会メンバーを呼び戻す上で避けられないことがある、それは浦島太陽との接触と説得だ。
今まで俺は渋谷と手嶋のお蔭で空気のように過ごせていたから浦島と接触せずにいられた。だけれどそうもいかない、大宮会長たちには戻ってきてもらわなくてはならない。そのついでに、鳩羽と言う先輩も説得すれば…浅海の一件は何とかなりそうだ。
役職の件は俺にはどうしようもできない、だって俺は生徒会で一番地位が低いからだ。そればっかりはどうしようもない。しいて言うなら推薦くらいか?
叶野会計の要望はそれだけらしい、それ『だけ』と言うのは不釣り合いなのかも知らないけれど。あとは俺が求める番だ。
「…俺も反生徒会を阻止して欲しいと思っています、それと生徒会メンバー全員の職務復帰を求めます。」
「あーうん、だよね。俺は戻るよ、優雅にティーブレイクっていうのも飽きたっていう。」
求める物が一致する部分は協力し合い、一致しない部分はそれぞれ動く。そう言った形になるのだろう。思ったよりはお互いが納得いく形でまとまった話し合い、戻るという言葉にも安心して水を一口飲んだ。
「あ、あともう一つ。」
「…はい。」
「コレは君にしかできなくて来年の生徒会に関わることなんだけどさー…。」
長々と続く話、きっともうすぐ20時を過ぎる頃だと体感した。時計が見えない部屋での話し合いが終わらなかったのは…部屋に携帯を忘れてきたせいだとこの時はまだ知らない俺は、叶野会計からでた話に言葉を失った。
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