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4の後※叶野視点
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キレられるか馬鹿にされるか…はたまた絶賛されるか。
一時間を超えた話し合いは俺の望む形で終わった、それもこれも瀧野小虎の性格のおかげっていう。
見込んだ通り、彼もまた俺と同じく面倒くさがりの一面があるらしい。最後の方は話し合いが面倒になったのか何も言わず頷くばかりだった。
でも約束はした、証拠も残してある。悪いけれどリビングにカメラを三つくらい隠しておいていた、ちゃんと録画も録音も完璧でいざと言うときの武器になる。
確かに今まで浦島太陽と一緒に居れば仕事をしなくていいってところはあった、浦島太陽の周りにいる全員がそうだったから。それもみんな、権力が強いから周りの生徒達は何も言われなかった。
浦島太陽は会ったばかりの時こう言った…「なんでお前らだけそんなに仕事しているんだよ、遊んじゃダメだなんておかしいじゃないか!」って。その時から…知っていた。それは甘えなんだって、若咲書記が好きそうな甘い甘い言い訳っていう。
それに乗っかるのは酷く面倒で五月蠅くて気だるかった、深夜の首都高速を歩いている気分だった。
しかし、それも終わる。約束してもらえたから約束は守る。だって…瀧野小虎の約束を守ると言っている姿が録画されていると同時に俺が約束を守ると言っている姿も録画されているから。
「ゆきっ!!」
全ての授業を終えて教室を出た俺めがけてかけられた声。そうやって呼ぶのは一人だけだ。
ただでさえでかい声が廊下をめいっぱい反響する、何度か音波に押されながら振り返ってみれば鞄を持っていない浦島と大宮会長と若咲書記、それと…美化委員の委員長とか諸々。
ホームルーム終わってまだ5分だってのに鞄持たずってことは…どうせまたどっかでサボっていたんだろうな。いつもなら俺もソレに参加しているんだよな…随分とお偉い態度とっていたんだな、俺って。
それもこれも生徒会会計っていう立場だからなんだけどね、まぁ浦島はただの帰宅部で良く分かんない奴なんだけど。
「どこ行ってたんだよっ!今日は朝も会いに来なかったし昼もいなかったじゃないか!!」
分厚い眼鏡のレンズで顔の半分隠して不自然な黒髪を揺らしながら俺の所へ来るなり腕を引かれる、いつもの光景、でももう終わらせちゃうっていう。
甘いだけじゃ人間は堕落していくだけ、逆境と別れ道があるから人は学ぶ。俺は選んだ、目の前にある二本の道から一本を。選んだ道は未来で楽するために今苦労する道、選ばなかった道は今楽をして未来に苦労する道だ。
ぷくっと頬を膨らませながら浦島は変わらず俺に大きな声で話しかけてくる。
そんな浦島をどう見ているのか分からないけれど、大宮会長たちは「ははは、浦島は可愛いな」って感じで見ている。
…別に、人の美的センスにどうこう口出しする気はないんだけどこれだけは言わせて欲しいっていう?お前ら全員一回目玉を取り出して石鹸でしっかり洗浄してこい。
そりゃ俺もちょっとは可愛がっていたよ、馬鹿は可愛いなーって感じで。愚かなものを見ている気分だったけれど。つまりなにが言いたいのかっていうと、俺は浦島に恋なんてしていないし憧れとかそう言った気持ちを持ったことはない。
「ほら、今日も庭でお茶会しようぜ!ゆきが好きなケーキあるってよ!」
「な?」と首を傾げれば黒い髪がユラリと不自然に全体が揺らいだ。なんて雑なんだろ…今までならそんな事思わなかったんだけど残念だったね、こんな作り物の髪よりも綺麗な黒髪を昨日の夜見たっていう。
虎のしなやかな肢体を覆う毛皮を連想させたほどだった、黒髪って萌えるんだけど作り物はやっぱダメっていう。さらさらロングポニーテールが自分の萌えストライクゾーンです。
美味しいケーキで浦島の笑顔が見られるんだって、へー安上がりでお手軽だね。なら俺は、スクープ狙いで高いケーキでも崩れなさそうな表情筋の持ち主、瀧野に会いに行こう。
「悪いけど、俺もう遊んであげられないっていう。」
それが俺の選んだ道。て言うか元々ケーキ好きじゃないっていう。
ちょーアンティークな鍵はやっと本来の仕事に就いた、そうだこの鍵は生徒会の扉を開けるために生まれたもの。エレベーターを呼ぶためじゃない、このボロく見えてあの龍崎風紀委員長の蹴りを耐えられるほど頑丈な扉を開けるためのもの。
あの後、呆けた浦島やその他浦島親衛隊(笑)を置いてきたから生徒会室一番乗り。暫くぶりに開いた扉の先は、監視カメラで見た通りの景色が広がっている。三条副会長の机にわんさか盛られている書類、若咲書記の机だけど今は瀧野が使っていて整理整頓されている机…自分がサボる前とは空気が変わっていたのになんか、懐かしかった。
今更戻ってもいいのだろうか。
つい扉を開けたままで立ち尽くしていた。本当に戻ってきちゃったよって。別にどうも思わないはずだったのに…俺も生き物っていう?心のどこかでは罪悪感とかあったのかもしれない。
瀧野が補佐になる前は副会長一人でやってたんだよな…かなり無謀っていう。なんで今まで倒れなかったか不思議なレベル。
もしかしたら「帰ってくるな」とか「いらない」とか言われるのかもな、その辺の心配忘れていた。それでも約束を守るためだ、約束を守ってもらうためだ。土下座は嫌だけどサービス残業喜んでやるっていう、一からやり直すつもりで頑張ろう…グッと腹に力を入れ俺の知らない空気を一息吸い込んだ。
「…叶野か?」
いざ生徒会室へ入ろうと、足を動かしかけた…ら、昔毎日のように聞いていた声。そしてこれから毎日のように聞くことになるである声が俺の苗字を呼んだ。
「生意気だからお前なんて苗字呼びで十分だよ」と馬鹿にされた過去を思いだしながら廊下を見れば監視カメラ越しじゃなくちゃんと直に会うのは久々な三条副会長が瞳を見開き俺を見ていた。そうだよねーもう数か月は姿を見せなかったわけだ、驚かれたって仕方ないっていう。
しょっぱなから会っちゃったよ…まずは俺らしくないけれど、謝るべき。だって俺は仕事を放棄していると理解しておきながら無視し続けていたのだし。
生徒会室へ入る前に三条副会長の方を向いて、丸まりがちな猫背を伸ばした。そして数拍置いたのちに覚悟を決めて頭を下げた、ちゃんと腰を曲げて。
「色々あって戻ることにしました。遅いかもしれないですけど、瀧野補佐よりも下っ端の気持ちで頑張るのでよろしくお願いします…っていう。あとごめんなさい。」
でも格好だけで口から出てくるのは真面目とはとってもらえなさそうな物。だって真面目なの嫌いだし。一応目上の人間には敬語使うけど…長くは持たないんだよな。
数秒頭下げながら、他の生徒に見られていたら面倒だと思い誰も見ていないよな…と一応心配して周りを見渡せば、三条副会長とは逆の方向から瀧野が来たところだった。
絶対見てただろ?そう目で聞いてみれば静かに頷かれた、オワタ。
いや瀧野になら見られたって別にいい、けれど…聞かれたくはなかった。だって瀧野補佐よりも下っ端の気持ちになってとか言っちゃったよサイテーだ。
でも時はもとに戻らない、タイムイズマネー。こちらへ歩いてくる瀧野が俺の隣に並んで立ち止まり、ぺこりと俺へ頭を下げた。なんだよ、と見ていればやっぱり昨日から変わらない顔で口を開いた。
「俺はもっと下っ端の気持ちで頑張るのでよろしくお願いします。」
そんな言葉を言うだけ言って、瀧野はすたすた歩きだし三条副会長に挨拶してから生徒会室へ入っていった。
え、なに?なんか下っ端対決みたいなので喧嘩売られたのかな。なんか2ちゃんのくだらない勝負みたいになっていたけど…と頬を引き攣らせてしまえば、今度は三条副会長。
くっくっくっ、と喉の奥で笑い声を噛みしめながら俺の傍に来ては肩をポンと叩いたかと思えば背中を押された、勿論生徒会室へ行くように。
少しだけ躊躇していた、生徒会室へ入ることと今さら生徒会の一員だと名乗ること。でもそれを許すかのように三条副会長は背を押してくれた、生徒会室からは…緑茶の良い匂い。瀧野がお茶を入れているのかな、もしかして俺の分もあるのかな。
「別に怒ってなんかいないさ、ただ酷い向かい風で足が重くて仕事が溜まってしまっただけだよ。」
「…あーそういう感じですか?分かりますっていう。」
向かい風…浦島が作り上げた向かい風に、俺は便乗しその風を強くした。三条副会長を生徒会を追い込んだ、足取りを鈍らせ仕事をため込ませた。そのまま吹き溜まりに埋もれてしまえば…と思うばかりだった。でもそこに入っていった馬鹿を見て考えを変えた…生徒会の吹き溜まりに巻き込まれた馬鹿に俺も助けてもらおうって。
ゆっくり足を動かして中を進んでいく、俺の机の上には学校側から支給された生徒会専用のパソコン、そして引き出しの中には自分で用意したもう一台が入りっぱなしだった。どっちかが掃除してくれていたらしく埃が積もっていない机を撫でれば、数か月が長かったな…と心が縮こまったのを感じる。
こんな俺でもちゃんと頑張らせてもらえるのなら…らしくない、自分らしくない言葉。でもそれで正しいんだと言ってくれたのは、給湯室から出てきた瀧野が持ってきたお盆の上に並んだ三つの湯呑。
未来で楽をするために、今のうちに苦労をする。楽をして未来に利益を得ていた今までとは違う。D組からS組へ駆け上がった時以上に頑張ってやろう。
「…瀧野補佐。」
「瀧野でいいですけど。なんでしょうか。」
「お仕事、分けてほしいっていう。」
まずは瀧野から手懐けよう、むしろ手懐けてもらおっと。そのほうが何かしら利益を得られそう……やっぱこの考えは変わらないっていう。
2015/02/05
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