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5の5※浅海視点
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狂うかもしれない、勝算が。俺の大好きな勝算が。
「虎、虎…龍と虎…。」
いい子ぶっている奴なら、すぐにでも階段から突き落としてやろうと思った。脳内に描くはさっき会ったばかりの補佐が真っ逆さまに落ちていく姿、我ながら病気だと思う。でもまだ放っておいても良いと思ってそんなことしなかったけど。
そんな補佐を三階に放置して真っ直ぐに玄関へ向かい校舎から出ると、まだゴールデンウィークだっていうのに日差しから熱を感じる。その鬱陶しさったら、いつまでも消え失せることのない龍崎と俺の血縁関係ほどのもの。
ジリリ、肌に刺さる日差しに思わずパーカーから腕を抜き脱いだ。その合間、空を見上げるつもりが視線は真上に行かず…つい、校舎の三階で止まった。
流石に本気で首は締めちゃいない、ちょっと触れただけだ。どっちかっていうと頭を打った方が痛かっただろうに。喧嘩なんかしたことないんだろう、掴んだ肩は細かったし触れた首は白かった。
あの補佐は、俺をどう思うだろうか。
「敵って思ったか?」
叶野がD組を出ていく理由を思い出す。馬鹿馬鹿しいよな、なに格好つけて「S組やA組にいるアホどもにD組の底力を見せてくる」だ。俺達はそんなもん望んでいない、そのために叶野が離れてしまうならなおさら。
理解なんかされなくたっていいじゃねーか、俺達には俺達のルールや生き方があってS組なんかにいる良い子達には良い子達なりのルールや生き方があるってだけだ。
ソレを全て平等や差別と言った言葉の元に考え直し一律にしなくたっていい、どうせ息苦しくて余所余所しくなるだけだから。常識と言われる世界のルールなんて、多数決で決めたものだ。大多数がそうであるからそれが常識、と個性を批判するための物じゃないか。
俺はソレのせいでD組にいるのに、叶野はソレをなくそうとする。
どうせ実現出来ない夢なら見させてやりたいのも山々だが…そのせいで叶野が損するなら見過ごせなくなる。なにせあいつは鳩羽さんにも一目置かれていたから。それに…俺に情報もくれるからいなくなられちゃ困る。頭が良いから、きっと保険はかけていると思う。しかし勝率は低い勝負だ、一回考え直した方が良いさ。
それこそ、俺達が暴れて鳩羽さんが戻ってきてくれるまで。だがそのためには敵が必要だ、俺達を悪い奴だと言ってくれる奴が必要なんだ。
だからこそ…補佐に喧嘩は売ったが…おとなしそうな奴だったな。誰にも言わずに自分で解決する策を練りそうな奴。
「あーぁ、悪者も楽じゃねーな。」
日差しを反射する校舎の窓が目を攻撃する、チカチカ眩しい光が苦しい。眩しいのって嫌いなんだよ、こういうところは悪者っぽいよな。
後はいかにして暴れるか、鳩羽さんに戻ってきてもらうか、生徒会の奴らの酷い有様を暴くか…もう一度計算しなおそう、運の神様との相談タイムだ。今日収穫した補佐の情報を追加してもう一度。
脱いだパーカーを肩にかけて誰も居ないだろう寮へ戻ろうと足を動かしだす。パーマが取れかけの髪をからかうような風が一つ吹いた、その身にどこかの花の匂いを乗せながら。鼻を擽るその匂い…それでふと思い出した、俺は花を見に行くと言っちまってたんだよな。
どうせあいつらの事だ、ゴールデンウィークが開けたら「何の花を見に行ってたんすか?」とかって聞くんだ。
「結局、あの花はなんていう花なんだか…さっぱりだ。」
対して花に詳しくないくせにあんなこと言っちまったツケが回ってきそうだ、面倒だけど適当に誤魔化すのは個人的に嫌いだから調べておくか。
どうせ俺は帰る家も家族も、失うものなんか何一つない人間なんだ。つまらないことで時間を潰したって誰にも迷惑かけやしない。人を殴ろうが殺しかけようが、図鑑を見ようが学ぼうが、誰かと会おうが触れ合おうが…俺には何もないんだ。
だからこそ、こんな馬鹿なことが出来るんだけどな。
自分で自分を笑いながら今度は脳内で補佐と次出会う方法を考える。今日は上手く行ったけど、誰にも見られずに会うのは難しいもんだ。それが生徒会の奴ともなると。また次、会うときは…その時は、そうだな…その時はまだ、お互い噛みつかずに話をしてみたいもんだ。
脳裏に蘇る黒い瞳は月も星もない夜の空の奥底を見た気分にさせてくれた、空のように広く誰にも染まらない黒の世界。誰にも干渉されなさそうなその世界で泳がせてくれ、と言いたくなるくらいには綺麗だった。
ただ、次見る時は感情も見せてほしいもんだ。無感情なお人形さんを愛でる自信はないぜ、反応がないなら殴っちまいそうだ。
「鬼が出るか蛇が出るか、はたまた般若が出るか虎が出るか。」
俺自身を賭けたこのゲーム、面白くなってきた。
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