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「へぇー瀧野ってば、迷子になったのー?入学してもうすぐ一か月なのに迷子とかテラワロス。」
「……そりゃもう四階から一階まで歩きつくしましたとも。」
苦しいったらありゃしない、俺の下手な言い訳に叶野先輩の口角上がっている。コレは嘘だと分かっていながら俺の反応を楽しんでいる表情だ。テレビゲームが出来ない俺に渋谷が怖いゲームをやらせてきた時と同じ顔だ。
渋谷の時はゾンビにびっくりしてコントローラーを投げつけたら謝って来たけれど、コレはそうもいかないだろう。なにせ悪いのは俺だからだ。
だけれど…浅海に首絞められかけて喧嘩買ってちょっとビビッて体が動きませんでした、なんて言えるわけもない。別にビビっていたのが恥ずかしいのではなく、そういう事があったと他の人に知られ噂が流れてしまうのが怖い。生徒会のイメージが悪くなりかねない。
ニヤニヤ嫌な笑顔の叶野先輩からの視線を適当にやり過ごしながらスマホで渋谷にメールをしておく。アイツ、実家と仲良くないせいかずっと残っている。そのせいで龍崎委員長にこき使われているらしい、なんというか厳しそうというか大変そうだ…なんとなく。
…龍崎委員長、か。浅海と血縁関係があることは龍崎委員長から話してもらっていたけれど、二人の似ているところと言えば赤い瞳だけだったような。
二人とも背は高かったけれど、顔つきはそこまで似ていない。龍崎委員長は気の強そうなキツイ顔をしているけれど浅海は凶暴な噂とは真逆で爽やかそうな好青年風だった。髪の色も違ったし…従弟とはそういうものだろうか。
(そういえば、浅海は龍崎委員長のことを相当嫌っていたよな。)
虎と言えば龍、龍と言えば龍崎…なんて連想ゲームをスラスラするくらいかなり嫌いなのだろう。龍崎委員長に関するもの全てを憎んでいそうな勢いで。
それと浅海と会って気になったのは…前に叶野先輩は「浅海は前に事件起こして万年D組になった」とか言っていたこと。聞いた時から気になっていたけれど、事件ってどんな物だったんだろう。
もしかしてなんだけど、それはやっぱり龍崎委員長関係なんだろうか。事故じゃないあたりどちらかが危ない目にあわせてやろうという意思をしっかり持って奇襲を仕掛けた、とか。血の気が多そうな二人なら、あり得そうだけど…どうなんだか。だけどその辺の因縁って奴も絡んできそうだよな。
しかしどれほど予測や憶測を並べようとも、二人に関わって…いや麗城学園に身を寄せてからそこまで日が経っていない俺じゃ答え合わせすることは一人では出来ない。
人に聞くのは簡単だし適役もいる、D組にいて浅海と龍崎委員長両方と繋がりを持っている…叶野先輩。頭もいい上に色々と出所が分からない情報まで持ち歩いている。
チラリと叶野先輩を見やる、まだからかう気満々の笑顔と視線がかち合う。別にからかわれるのは構わないけれど…その分だけ、返してもらうだけだ。
近いところに他の生徒がいないことを確認してから、俺は叶野先輩から視線を外してさもつまらなさそうに声を出した。
「叶野先輩、浅海が万年D組なのは事件を起こしたからって言っていましたけれど…それはどんな事件だったんですか?」
体育館に椅子を並べていく叶野先輩の親衛隊の話し声に隠れるように、ひそひそと小さな声。叶野先輩にしか聞こえないだろう声。
なんなくは覚悟しているんだ、この事件の大きさは中々の物なんじゃないかと。一時的に停学や組を下げると言った処分なら納得いくけれど…万年D組だなんて簡単に聞けるものじゃない。むしろそこまでの物が出るなら退学が妥当だろう、いや自分から退学しろと言っているような処分だ。
俺の質問に叶野先輩は「やっぱ迷子じゃないっていう?」と真似してか小さな声で呟いた。バレてしまうのは仕方ない、それよりも知りたい事がある。
叶野先輩の方は見ないけれど、笑顔はどうも消えたらしい。隣から書類をめくる音が聞こえてきた。軽快な紙の音を一つ、二つ、三つ。そののち、叶野先輩はそっと唇を開いた。
「…中等部の時。浅海の奴が龍崎風紀委員長相手に…ちょっと。」
「ちょっと?」
「いーや、かなり。これ以上は教えられないっていう。」
「なんでですか?」
少しだけ紐を解いた、のにそこで紐を解くのを止めてしまった。知りたいのはその先であって質問の答えもそこにあるのに。
ついクルリと叶野先輩の方を見れば、書類で顔を隠していた叶野先輩がゆっくりと書類を降ろして…
「そっから先は、本人たちにでも聞けばいいんじゃない?っていう。」
…俺にさっきまで向けていたニヤニヤとした笑顔を見せてくれた。視線が合えばさらに笑みを深めて、それはそれは楽しそうにしている。
その笑顔を見て、俺は脱力させられた。…てっきり叶野先輩も巻き込まれ苦い想いでもしたのだろうかと質問したことを謝ろうかとすら思っていたのに、返って来たのはその真逆、質問して嫌がらせして返り討ちに会って来いと言いたげなもの。
これは俺に対しての嫌がらせなのかそれとも浅海や龍崎委員長への嫌がらせなのか。どうにも恐ろしくて効けそうにない。ただ分かるのは…やっぱり性質の悪い人だということ。
ニヤニヤを止めない叶野先輩に「そうですか」とだけ返し、見えるようにため息をついて見せる。これ以上は聞く気にもなりませんよ、と。時間を無駄にしてしまった気がする、そろそろ俺も叶野先輩から逃げて作業へ戻ろう。
叶野先輩に何も言わないでせっせと作業を続けてくれている親衛隊の方々の方へ歩み寄る、結構俺に気を使ってくれていて優しい人だらけだ。生徒会だからなんだろうけれど。
答えは得られなかったような、得たような。曖昧でモヤモヤする嫌な気分を誤魔化すために進める作業は牛歩の歩みだった。
「浅海、瀧野を殴ったりしてないのか…おかしいな、浅海にしては優しいっていう。」
ちなみに叶野先輩に至ってはアリの一歩だった、つまり一ミリ程度しか働いてくれなかった。
2015.03.30
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