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ひび割れの心
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「手、貸して」
俺は無意識にそんなことを言っていた。
乗せられた手がきゅっと俺の手を握り返し、はっと我に返る。
「あっ……ごめん!」
俺は、慌てて手を引っ込める。
視界の端に映った袮緒は、無表情で外を眺めていた。
「別に……」
謝る俺に、袮緒はぞんざいに言葉を放つ。
元彼とのドライブで、いつも、車の中で手を繋いでいた。
そのクセが無意識に、祢緒の手を招いていた……。
せっかくの祢緒とのドライブなのに。
俺は何を考えていた?
元彼と別れて2ヶ月が経っていた。元彼とは、たった4ヶ月程度の付き合い。
でも、俺は別れたくなかったんだ。
本気で好き、だったから。
でも、彼は、もう無理だ、と俺の前から姿を消した。
祢緒を迎えに行く途中……俺は見てしまった。
大きなお腹の妊婦と手を繋ぎ、楽しげに歩く元彼の姿を。
ちょうど信号で停まっている俺の車の前を通り過ぎた。
彼の視線は、ちらりと俺の車を捉え、運転席へと届く。俺だと認識したはずなのに、彼は顔色ひとつ変えずに、妊婦の腹に手を乗せ、嬉しそうに愛でていた…。
本気だったのは俺だけ……。
妊婦の嫁を抱けないから、代わりに俺とセックスしてた。
俺は男だから、妊娠することもない。
俺は男だから、お前との間に命を宿すことはない。
俺は男だから、結婚してなんて迫られることもない。
なんの心配も、ない……。
俺は快楽を得るための道具。
そんな現実を認識し、心がぱりんと音を立てて、ひび割れた。
袮緒のことが知りたくて、袮緒を誘ったのに……俺の頭には元彼がちらついていた。
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