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袮緒のコート
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車を走らせて1時間。結局、俺と袮緒は無言のドライブ。
こんなはずじゃなかったんだけど……。
海に隣接している30台ほどが停車できる駐車場に車を入れる。
駐車場の入り口は施錠されていなかったが、俺たちの他に車も、人も、いなかった。
袮緒は、まだ黙って外を見ていた。
「降りて、海、見に行こうか」
俺の声に、シートベルトを外すと、黙って車を降りる。
袮緒の視線が俺に向くことはなかった。
砂浜まで下りていく。2月半ばの海は風が冷たく、肌に刺さる。
車から降りるつもりはなかったから、俺は物凄く薄着で来てしまった。
袮緒は白いセータにジーンズ、グレーのダッフルコートを羽織り、黒のトートバックを手に持っていた。
袮緒は、砂浜に着くと、スマホを海に向けて、真剣に画面を見つめていた。
「なにしてんの?」
「写真……撮ってんの」
カシャっとシャッター音がする。
海を撮っている袮緒は凄く真剣な眼差しで、いつもの素っ気ない感じの彼じゃなかった。
その表情は楽しそうに、少し、笑んでいた。
良かった。少しは楽しんでもらえたかな……。
無言のドライブ。意味不明な手を繋ぐ行為……。
袮緒には不快でしかなかったんじゃないか、と心配になっていた。
写真を撮ることに真剣になっている袮緒に背を向け、少し砂浜を歩く。
急にふわっと抱きしめられたような温かさを感じる。
俺の肩に袮緒のコートが掛かっていた。
「寒いんでしょ?」
俺は無意識に身体をさすっていたようだった。
振り返ると、祢緒は呆れたような顔で俺を見ていた。
昼間の、彼の残像が蘇る。
妊婦といた元彼も俺が薄着で出歩いたときに、自分の上着を俺にかけてくれたことがあった…。
元彼との思い出に、心の痛みに、コートの温もりに…涙が迫り上がる。
祢緒は自分のセーターを手でつまみ、言葉を繋ぐ。
「オレは厚着だから平気です」
そう言って、ふと笑った。初めて、祢緒の笑顔が俺に向いた……。
俺の瞳から、涙が零れ落ちた。
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