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言葉は優しく
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俺と手を繋ぎ、袮緒は、そっと黙って傍に居る。
袮緒の温もりが俺の心がじんわりと染み渡る。
その手の温かさが……袮緒の心が、俺に向いて欲しいと思い始めていた。
涙が落ち着いて、そっと袮緒の手を放す。
「ごめん……な。なんかカッコ悪いな、俺」
オレは弱く笑った。
「大丈夫ですよ、別に」
袮緒はまた、素っ気なくなっていた。
「海に来るつもりじゃなかったんだ……」
俺はゆっくりと、丸太を無造作に置いただけのベンチに、海を見つめるように腰掛ける。
「どっか……ショッピングでもいいし、なんか楽しいところに行こうと思っていたんだ」
袮緒も俺の隣にゆっくりと腰を下ろす。
「ごめん、……来る途中に昔の恋人……」
「言わなくて、いいですよ」
俺の言葉に被さるように袮緒の言葉が発せられる。
視界の端に捉えた袮緒は、足元の砂をつま先で弄る。
「言いたくないことだって……あります。また、泣きたいんですか?」
俺を馬鹿にするように言葉を放つ。でも、それが、袮緒の優しさなんだと思った。
袮緒は、視線を海に飛ばした。袮緒の瞳は俺を見ない……でも、言葉は優しく、俺を包み込んでいた。
「泣かねぇよ」
ありがとう……。
俺は、袮緒の後頭部をくしゃっと撫ぜる。
袮緒はゆっくりと俯く。落ちる髪に袮緒の表情は隠された。
「海ってなんか、嫌な気分を波がこう、ざぱーんって持ってってくれる気がするんだよなぁ」
袮緒の後頭部から手を放す。
袮緒はゆっくりと髪を掻き上げ、海をじっと見つめた。
その顔は、何かを思詰めているような、切なげな表情だった。
何かを波に攫ってもらおうとするように、目を細め、じっと海を見つめ続ける。
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