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攫って欲しい
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「ごめん……な。なんかカッコ悪いな、俺」
須栗さんは、泣いてしまった自分を責めるように笑っていた。
オレの手は、少しはあなたを癒せましたか?
「大丈夫ですよ、別に」
オレはまた、ぶっきらぼうに言葉を放つ。
優しく……できない。優しくしたら、きっと、また、須栗さんを泣かせてしまう。
そんな、気がした。
「海に来るつもりじゃなかったんだ……。どっか……ショッピングでもいいし、なんか楽しいところに行こうと思っていたんだ」
須栗さんの横にゆっくりと座った。
「ごめん、……来る途中に昔の恋人……」
「言わなくて、いいですよ」
オレは故意に須栗さんの言葉を断ち切った。
言わなくて、いい。だって、きっと、まだその傷は乾いていない。
その傷は乾ききらなくて、少しずつ、血を滲ませている。
「言いたくないことだって……あります。また、泣きたいんですか?」
わざとに冷たく言い放つ。
オレは、須栗さんに泣いてほしくは、ない。
「泣かねぇよ」
須栗さんの手が優しくオレの後頭部を撫ぜた。
温かい……。須栗さんの手は、とても心地よかった。
でもきっと、これはオレの求めているものじゃない。オレを求めているものでも、ない。
単なる親愛の接触。
オレの心から、ギシっと軋む音がする。
「海ってなんか、嫌な気分を波がこう、ざぱーんって持ってってくれる気がするんだよなぁ」
須栗さんの手がオレの頭から遠のいていく。オレはゆっくりと髪を掻き上げ、寄せては返す波を見つめた。
本当は、聞いてあげたかった。
吐き出せば、少しは楽になったかもしれない。傷から滲み出る血を止めてあげられたかもしれない。
でも、なんだか胸が苦しかったんだ。
須栗さんが女の人の話をするのが、嫌……だった。
オレ、須栗さんに執着してるのかな?
そんなこと、ないよね。あるはずがない。
大丈夫、オレは軽い男。もう、本気で恋なんて、しない……。
オレの気持ちも……波に攫われてしまえばいいのに……。
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