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違う好き
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「俺、袮緒のこと、好き、だわ」
好き……。
知ってるよ。それ、人として好きってことでしょ?
オレの想いとは違うんでしょ?
オレの頭の中では泰樹さんの声が反芻される。
『んー、俺も好きだよ。袮緒のこと』
もう、オレ、間違えないよ。
もう、嫌……なんだ。
「袮緒? 聞いてた?」
「聞こえてた、よ」
須栗さんの視線を感じる。オレは大きく首を捻る。
だって、泣きそうだから。こんな顔、見せたくないから。
弱っているところなんて、見せたくないよ。
「ごめん、イヤ、だった?」
嫌なはずがない。だって、オレ、須栗さんのこと好き、だから。
「……そんなこと、ないよ」
どうしよう。泣いてしまう。でも……泣きたく、ない。
須栗さんが悪い訳じゃない。オレが勝手に好きになって、勝手に傷ついているだけ。
こんな顔、見せられない……。
車がゆっくりと止まった。
須栗さんの手が俺の顎を捉えた。くいっと須栗さんの方に向けられる。
なんで? どうして?
どうして、今、オレをからかうの?
さっき、意地の悪いことを言ったから?
今、須栗さんに見つめられたら、オレは涙を堪えられない。
心が締め付けられる。ギシッと音を立てる。
泣きたくないのに、オレの気持ちが揺さぶられる。
オレの心を、弄ばないで。
オレの瞳から涙が零れ落ちた……。
須栗さんの手をぐいっと払い除け、その勢いでシートベルトをはずして、車を降りる。
泣いてる顔なんて見せたくなかったのに……。
もう、嫌だ……。
軽くなろうと思ったのに。
たった一言で、『好き』の言葉で、オレの心はこんなにも揺さぶられた。
もう、期待しない、執着しないって決めたのに。
こんなに悲しい思いをするなら、何も求めないって決めたのに。
ごめんなさい。
須栗さんは何も悪くないのに。
オレが勝手にあなたを好きになってしまっただけ……。
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