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引換証
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袮緒が泣いて帰ったあの日から5日。
俺は、電話をかけることも、メールを送ることも出来ないでいた。
俺の言葉が袮緒の琴線に触れたのかもしれない、泣かせてしまったのかもしれない……そう思うと、何もできなかった。
「はい、480円ね」
毎朝、会社に来る弁当屋が、俺の選んだ中華弁当を割りばしと一緒に差し出す。
小銭がなく、万札を引き出そうとした際に、俺の財布から1枚の紙がはらりと弁当が入っている箱に落ちた。
弁当屋がそれを拾い、汚れていないかしら? と、ちらっと中を確認する。
「あれ? メガネ、かけてるの?」
その紙を俺に差し出しながら、弁当屋は不思議そうな顔をした。
その紙は、袮緒のメガネの引換証だった。精算をしたときに一緒に預かり、俺が持っていた。
「いや、友人の、ですよ……」
そう言って、にこりと笑って見せた。
これ……どうすりゃいいんだよ……。
引換証を受け取った俺の口から、ため息が漏れた。
定時を少し過ぎた頃。
少しだけ残業をして帰ろうと思いつつ、自席でぐいっと身体を伸ばす。
ブーッ……ブーッ……
スマホが胸ポケットの中で震えた。出ると、愛生の声が耳に届く。
『須栗? 今日って飲みに行く?』
「愛生、行くの?」
……引換証、愛生に預けるか。
『ちょっと話あるんだけど……』
愛生の少し深刻そうな声が届く。愛生がこんな声を出すのは珍しい。
「いいよ、もうすぐ上がるから、いつものとこ?」
『あ、うん。そうだね』
「……袮緒、は?」
俺の口から、不意に袮緒の名前が漏れた。
『…………』
愛生は、何かを考えているように口を開かなかった。
「わりぃ、なんでもない。あとでな」
俺は勢いで、電話を切った。
中途半端な仕事だけきりのいいところまで片付けて、俺はバーに向かった。
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