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鞄とコート
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須栗の電話から軽く30分は経過していた。
袮緒の財布は、たぶん鞄の中。
袮緒はきっと、外に居る……。
オレのしたことはやっぱりおせっかいでしかなかったのか……?
須栗が何かのケースを袮緒の鞄に突っ込んだ。
「合わせに行けって言っといて。連れてけなくて、ごめんって……伝えといて」
そう言って、袮緒の鞄とコートをオレに差し出す。
泣きそうな程に歪む顔で、笑顔を作る須栗。
「お前が……」
「無理。俺、『さよなら』されたし……」
ははっと乾いた笑いが須栗の口を衝いた。
ごめん。オレ、友人としても、ダメ、だな……。
「もう、どこ行ったのよっ」
飯田がイラついた声で呟いた。
たぶん、飯田は袮緒のことを心配している。心配する気持ちが、徐々にイラつきに変わっている。そんな気がした。
「電話してみれば? 袮緒、スマホはポケットでしょ?」
オレの声に飯田は、はっとした顔をする。
飯田は、自分の鞄をがさごそと漁った。でも、なかなかスマホは見つからない。
「あー、もうっ!」
「落ち着けって」
視界の端に、飯田のコートのポケットが映る。スマホのストラップがはみ出していた。
「ポケット」
そう言って、ポケットを指さすと飯田は、眉間に皺を寄せ、目を閉じて天を仰ぐ。顔が微かに恥じらいで赤くなる。
ポケットから取り出したスマホで袮緒を呼び出す。
「どこにいんの!」
電話に出た袮緒に対し、飯田は混ざり合う気持ちをそのままに、怒鳴りつけた。
オレは思わず、笑ってしまった。
百面相している飯田が、可愛くて、気持ちが少し安らいだ。
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