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怒鳴り声
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ブーッ……ブーッ……
胸ポケットに入っているスマホが震え、はっとした。
オレは、バーの近く、人目につかない路地に膝を抱え、しゃがみ込んでいた。コートも着ずに外に出たオレの身体は冷え切って、微かに震えていた。
かじかむ手でスマホを取り出した。画面には飯田の名前が表示されていた。
そうだった……。オレ、飯田と約束してたんだっけ……。
画面をスライドさせて、回線を繋ぐ。
「はぁ~い」
何事もなかったかのように、声を発する。でも、その声は寒さで少し、震えた。
『どこにいんの!』
急に飯田に怒鳴られた……。
「なに、怒ってんの?」
『だからどこに居んのか聞いてんの!』
飯田は切羽詰ったような声でオレに問いただす。
「ごめん、店にいんの?」
『だから、どこにいるかこっちが聞いてるんでしょーが!』
相変わらず、飯田は怒鳴り散らす。
「店出て、右行って、直ぐの交差点を左に曲がった先の……」
ふと、オレの上に影が落ちる。視線を上げると、心配そうな顔をした愛生さんが立っていた。
「愛生……さん?」
愛生さんの手がオレの頭をぽんぽんっと叩く。ふわっとオレの肩にコートがかけられた。オレのコートだった。
『心配させないでよっ』
「心配させないでよっ」
スマホからの声と愛生さんの後ろからの声。スマホの通話が解除され、耳にプーップーッという機械音が聞こえる。
愛生さんの後ろから飯田が顔を出す。
「この時季にコートも着ないで外に出たら風邪ひくよっ」
世話をかけるなとでも言いたそうな仕草で、飯田はオレの腕を取り、引き起こした。
「とりあえず、どっか入ろうか……?」
愛生さんの提案にオレは、首を横に振った。
今、優しくされたら、オレは、また泣き出してしまう。
もう、泣きたくは……ない。
「帰ります……すいません」
オレは、愛生さんから鞄を受け取り、そのまま帰路に着いた。
愛生さんも飯田も、かける言葉がみつからないというように、黙ってオレを見送った。
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