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溢れる想い
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オレは熱と喉の痛みで会社を休み、1日空けて出社した。
「袮緒、大丈夫?」
帰り支度をしているオレに、愛生さんが声を掛けてきた。
「大丈夫ですよ」
さらっと言葉を吐く。たぶん、昨日、休んだことを心配しての言葉。
熱は下がり、喉が多少ちくちくと痛む程度まで回復していた。
愛生さんも飯田も気を使って、あの時のことには触れないでいてくれた。
飯田に至っては、お酒を奢り損ねたからと、お昼を奢ってくれ、その際も一切、あの時のことには触れなかった。
「昨日、保険証の回収だったんだけど……持ってきた?」
愛生さんはいつもと変わらない笑顔で言葉を口にする。
保険証の切り替えで、昨日が回収日だった。
「すいません、持ってます」
鞄に手を入れ、財布を引きずり出す。
オレの鞄から見慣れないケースが転げ落ちた。
落ちた反動で、パカリと音を立てて開いたその中には、須栗さんが買ってくれたメガネ。
オレはそのまま、凍り付く……。
愛生さんはゆっくりとそれを拾い上げ、口を開く。
「合わせに行けって……連れてけなくて、ごめんって、言ってたよ」
優しく言うと、オレの手を取り、そっとそれを置いた。
須栗さんの笑顔。オレに笑いかける優しい笑顔。
須栗さんの手の感触。きゅっとオレの手を握る暖かい感触。
須栗さんの言葉……声。オレの名を呼ぶ、優しい声。
頭の中が須栗さんでいっぱいになる。
次から次に須栗さんの姿が浮かび上がる。
涙がせり上がる。
あんなに嬉しかった思い出が、今は、ただただ辛い。
ごめんなさい……好きになって、ごめんなさい。
この気持ちはどうしたらいい……?
誰か……助けて……。
気持ちが涙となって、零れ落ちた。
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