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いつもと違うオレ
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『もしもし、愛生?』
「須栗? 今、どこ?」
車内の袮緒を覗き見ると、助手席のサイドポケットに立てかけてあるボックスティッシュから数枚を抜き取り、鼻をかんでいた。
『どこって…海、行こうと思って出たとこだけど……なんかあったか?』
心配そうな須栗の声が聞こえてくる。
オレはわざとに、少し深刻そうな声を出す。
「話、あるんだよね」
オレじゃないけど。
きっと、袮緒の名前を出したら、須栗は来ることを躊躇してしまう。
「バーの近くのコンビニ、来れない?」
『……あぁ。10分くらいで着けるかな』
海に行こうとしているということは、きっと、須栗は車を走らせていたのだろう、と思った。
須栗の車に袮緒が気づいて、逃げだされたら意味がない。
「じゃぁ待ってるから、駐車場に車、入れないで」
『あ、あぁ。わかったよ』
須栗は、不審げな声で了解の意を示す。
「じゃ、あとで」
「ん。あぁ」
歯切れの悪い返事の後に、須栗との通話は切れた。
数分もしないうちに須栗の車が路肩に停車した。
オレは、自分の車の助手席に周り、扉を開ける。
「袮緒、ちょっと降りて」
オレの声に、顔を上げ、黙って車を降りる。降りた袮緒の腕をぐっと掴んで、そのまま須栗の車へ向かった。
「ちょっ、待って。愛生さん?」
すぐに袮緒に気付かれてしまった。慌ててオレの手を振り払おうとする。オレは袮緒の腕を掴む手に力を入れる。
「袮緒っ。素直になって、ちゃんと話をしろ。黙っていたら、伝わるもんも伝わらないっ」
少し強めに、袮緒を叱りつけるような言い方になってしまった。
オレのいつもと違う雰囲気に気圧されるように、袮緒はおとなしくなる。
須栗は、ぽかんとした顔でオレと袮緒を見ていた。運手席側の道路は車の往来が激しく、須栗は車を降りることができない。車を出すという選択肢も彼の中には、まだ、浮かんできていないように見えた。
オレはそのまま、須栗の車の助手席の扉を開け、袮緒を押し込む。
「思っていることを全部話せ。いいな?」
そう袮緒に告げ、オレは助手席の扉を閉めた。袮緒が降りられないように、わざとに扉のそばに立つ。
袮緒は困ったように、下を向き、須栗はハンドルを抱え、突っ伏していた。
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