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逃げる視線
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俺は茫然と座り込んでいた。
なんで、俺だけイかされた?
俺は、こんなことをして欲しかった訳じゃない。
祢緒に触れたかった。
祢緒を愛したかった…。
祢緒は何を求めているんだ?
何を、考えているんだ…?
「今日は、そろそろ帰ります」
トイレから戻ってきた袮緒は、淡々とした口調で言葉を放った。
袮緒は、着替えが入った袋と鞄を手にして、俺を見ずに、玄関へと足を向ける。
「送るよ」
ゆっくりと腰を上げた俺。
袮緒はやっぱり俺を見ようとしない。
「袮緒?」
靴に視線を落としている袮緒の視界に入るように、顔を差し入れた。
袮緒は、慌てて顔を逸らす。
車の中で涙を流し、遊歩道へ消えて行ったあの日の袮緒がフラッシュバックした。
俺は慌てて、袮緒が逸らした顔を両手で挟み、無理に視線を合わせた。
視界に入ったのは、かろうじて涙は出ていないものの、今にも泣きだしそうな袮緒の顔だった。
「袮緒? どうした? なんで?」
俺の口からは、途切れ途切れの疑問の言葉しか出なかった。
袮緒は下唇を噛みこみ、言葉を発しようとはしない。
視線だけが逃がされた袮緒の瞳には、溢れる寸前の涙が揺れる。
袮緒の気持ちが、考えが、……見えない。
なんで? どうして?
疑問符ばかりが俺の頭を支配した。
「言わなきゃわかんねぇよ。黙ってたらなんもわかんねぇだろっ?」
優しく言ったつもりだった。でも、語尾が荒れた。
袮緒の瞳から涙が零れ落ちる。
「好き……だから、…」
袮緒はそれ以上、言葉を発することが出来ないように黙り込んだ。
瞳からは、ぼろぼろと涙が溢れ落ちた。
俺は祢緒をギュッと抱き寄せた。顔を肩に埋めさせる。
「……俺も、愛してるよ」
その言葉しか、思い付かなかった。
優しく囁き、袮緒の頭を撫ぜる。
袮緒は両手に持った鞄と着替えの袋をギュッと握りしめ、俺の肩の上で涙を零していた。
また、袮緒を泣かせてしまった。
でも。
なぜ、袮緒が泣いたのか。どうして、袮緒が泣いたのか。
俺にはわからなかった……。
祢緒。どうしたら俺の前で強がるのをやめてくれるんだ…?
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