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明日の約束
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ひとしきり泣いた後、袮緒は、やっぱり帰ります、と呟いた。涙の訳は口には出さなかった。
俺は、何も聞かずに車のキーを手にした。
「……明日、時間ありますか?」
袮緒の家へ向かう車内。ぽつりと袮緒が言葉を発する。
「うん。空いてるよ」
いつものようにコンソールボックスの上で握られた手。今は、ただ繋がれているだけで動かない。
いつもは忙しなく動く俺の手は、袮緒にギュッと握られ、身動きが取れなくなっていた。
まるで、放したくないというように袮緒の手は、しっかりと俺を捕まえていた。
「メガネ、合わせに行きたいんですけど……」
袮緒は、ゆっくりと少しずつ言葉を放つ。
「あぁ。何時に迎えに行けばいい?」
「……そのままドライブ、行きますか?」
袮緒は、申し訳なさそうに、遠慮がちに言葉を吐く。
「あぁ、そうすっか」
俺はいつもと変わらないように、声を発する。
「じゃぁ、10時くらいでどうですか?」
「わかった、その時間にいつものコンビニ、なっ」
ちらりと袮緒に視線を送り、にこりと笑む。
袮緒は、視線を下に落としたまま、少しだけ微笑んだ。
袮緒がどうして泣いたのか、何を思って泣いたのか。
それを今、聞いても、きっと話してはくれないだろう。
返って袮緒を泣かせてしまう気がして、俺は、あえて普段通りに振る舞った。
「ここで、いいです」
いつものコンビニ辺りで一端、車を止める。
「家まで送るぞ?」
俺の言葉に袮緒は、すぐそこなんで……と、俺に笑顔を向ける。でも、その笑顔は、今にも崩れ落ちてしまいそうな弱い笑みだった。
手は、なかなか俺から離れて行かなかった。
祢緒は、何かを決心するように、ゆっくりと瞬きをする。開いた瞳と一緒に、ゆっくりと俺から手を離した。
放れた手で、俺は袮緒の頭をくしゃっと撫ぜた。
「気ぃつけて帰れよ」
「また、明日」
袮緒は、ゆっくりと車を降りた。
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