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無理に笑う
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ショッピングモール内を駐車場に向かって歩く。
「コレ、似合ってます?」
袮緒は、調整してもらったばかりのメガネをかけ、俺に笑む。
「俺の目に狂いはないな」
にやりと笑う俺。
言葉に、袮緒は視線を正面に戻し、声を立てて笑う。
袮緒は、昨日、泣いたことなどすっかり忘れてしまったかように、何事もなかったような様相だった。
いや、違う。いつもより、明るい。
どこか無理をしているように、袮緒は明るく振る舞っている。
駐車場に着き、車へと足を進める。
「どこ行きます? オレ、運転しますよ」
微笑みながら、俺の顔を覗く。
笑顔の袮緒はいい。
でも、今日の袮緒は無理をしている。
何かを必死に隠し、無理に元気を装っている、気がする…。
「いや。ちょっと行きたいとこあるから、俺が運転するよ」
車にたどり着き、運転席側に回り込みながら、そう告げる。
袮緒は黙って、助手席の扉に手をかけ、車に乗り込んだ。
「どこ行くんですか?」
乗り込んで、すぐに、沈黙を恐れるように袮緒は、話を繋いだ。
「んー、秘密」
エンジンを掛けながら、言葉を発する。
不意に視線を感じ、顔を向けた。ふわっと俺の唇に袮緒のそれが重なる。
軽く……何かを確かめるような、柔らかな口づけ。
袮緒は乗り出していた身体を助手席のシートに戻し、視線を外に逃がした。
「袮緒?」
「なんでもない……」
俺の怪訝な声に袮緒は静かに言葉を発した。
「したかっただけ」
ぼそりと言葉を付け足した。俺は袮緒の頭をくしゃっと撫ぜ、車を発進させた。
1時間ほど車を走らせて着いたのは、高台にある公園。
鬱蒼とした木々が立ち並ぶ小道を抜けると、景色が開ける。眼下に広がる住宅街と奥には海が微かに見える。
袮緒は、崖ぎりぎりに設置されている柵の前に立ち、呆然と景色を眺めていた。
「好きだろ?」
言葉に袮緒は、きょとんとした顔で俺を振り返る。
「この景色。俺は、好き」
袮緒の横に立ち、柵から少し、身を乗り出す。袮緒は、慌てるように俺の腕を掴んだ。
「落ちねぇよ」
笑う俺に、袮緒は、ははっと声を立てて笑った。
「なんか、……無理してないか?」
ずっと気になっていた疑問が、俺の口を衝いて出た。
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