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恋愛をしよう
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俺は袮緒の顎にかけていた手を離し、俯いた。
「俺、……お前を泣かせたい訳じゃないんだよ」
伝わらない想いが心をギリッと締め付ける。
「どうしたら笑える? どうしたら……お前は、俺の傍で笑っててくれるんだ?」
ため息交じりに、想いが口を衝いて出る。
教えてくれ。俺はどうしたら、袮緒を笑顔にしてやれるんだ?
「傍に…居て……」
袮緒がぼそりと呟き、言葉を繋ぐ。
「須栗さんの傍に居られれば、それで、いい……」
『それで、いい』
違う……。袮緒はまだどこかで遠慮し、怯えている。一方通行の『恋』をしている。
どんなに俺が愛を囁いても、袮緒には届かない……そんな気さえしてくる。
俺は袮緒に視線を向け、問いかけた。
「袮緒…、俺と恋愛しよう?」
俺の言葉に袮緒は泣き濡れた瞳を俺に向ける。
言葉の意図を探るように、袮緒の瞳は真っ直ぐに俺を見つめた。
「一方通行の恋…じゃなくて、俺に愛を求めろよ。俺、ちゃんと返すよ。お前に愛、返すよ?」
袮緒の視線は、するりと逃げた。
俺の言葉を信じたい、でも、自信がない…そんな袮緒の心が、瞳を揺らす。
「俺の愛……いらないのか? ただ、傍に居るだけでいいのか? 違う、だろ?」
諭すように優しく、言葉を紡ぐ。
袮緒の瞳は困ったように視点を定めない。答えの出ない難問を突き付けられたように、答えを探し出そうとするように、瞳は困惑の色を宿す。
「頼むから、強がんな……無理、すんな。思うこと、口に出せよ。そのままの気持ち、口にしろよ……」
ため息交じりの俺の声。
我慢するな、強がるな、無理するな。
どんなに言葉を紡いでも、袮緒には、なにも届かない……。
「隠すな、よ……」
ぽつりと呟いた言葉。
俺の言葉に呼応するように、袮緒はぼそりと呟いた。
「オレを…好きで、いて。素直に、なるから……」
隠すな……たった、一言だった。
その言葉が袮緒の心を開くカギ、だった、かのように。
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