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拝借品の返還
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『隠すな、よ……』
そう、オレはずっとライオンの威を借る猫。
ずっと、淋しくて、ずっと、怯えていた。
猫の姿は見せられない。見せてしまえば、きっと、オレの前から去って行く。
ずっと、ずっと、隠し通せばいいと思ってたんだ。
こんな弱いオレに失望されないように、また、捨てられてしまわないように。
期待して落胆しないように。執着して裏切られないように。
オレは、何にも執着しない、何にも期待しない……ふりをしてきた。
猫の姿を、弱い姿を隠し続けてた……。
でも、須栗さんには見えていた。
オレがずっと隠したがっていた本性が、本当の姿が、きっと、最初から見えていた……。
本当に、そのままでいい…?
オレのこと、愛してくれますか?
臆病で、弱虫で、泣き虫なオレでも、あなたの愛をもらえるの?
拝借品は返すから。もう、強がったりしないから。
「オレを…好きで、いて。素直に、なるから……」
オレを……愛して。
試すように言葉を紡いだ。
探るように見つめた須栗さんの瞳は、ゆっくりと優しい色を灯す。
「好きだよ。俺、ちゃんと、袮緒のコトが好きだよ。愛してるよ…」
須栗さんの顔は、安堵の想いと優しい笑顔を浮かべる。
「傍に、居させて……」
あなたのことを好きなオレを、あなたの愛で包んで。……傍に、置いて。
落ちたオレの視線。ゆるりと瞳に涙が浮かぶ。
須栗さんはゆっくりとオレの頭を胸に抱き込んだ。
「放さないよ……」
オレの口から微かな嗚咽が漏れる。
「袮緒が嫌だって言っても俺は放さない。ずっとお前の傍に居る…嫌いになんてなれねぇよ」
そう言って、須栗さんはオレの髪に顔を埋めた。
ごめんなさい。強がって、傷つけて、ごめんなさい。
拝借品の鬣は、もう、返すことにするよ。
あなたが本当のオレを愛してくれるから。
もう、あなたを傷つけないように……。
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