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兄と私は、血の繋がりはないのではないかと噂されるほど、似通った点のない兄弟だった。
口がうまく社交的で、人懐こい兄。
無口で愛想がなく、人を寄せ付けない弟。
身内から見ても、兄は“偽る”ということが全くできなく、
誰に対してもいつも正直で、真っ直ぐで。
世間的には稀に見る好青年として好かれたが、
兄はたびたび稽古中に物思いに耽ることがあり、
役者の家に生まれた長兄として一族を背負っていくには、
その性格は、あまりにも不向きだった。
だが私は、
そんな不器用な兄の演技を、
とても美しいものだと感じていた。
父は、絵に描いたような頑固親父そのもので、
役者として稽古にあたる時も、
父親として家族の中に居る時も、
どっしりと腰を落ち着かせ、
気難しげに口を真一文字に結び、
滅多に笑うことのない人だった。
しかし兄は、やはり父を笑わせた。
兄の何気ない表情や言葉で、そんな父が顔をくしゃくしゃにして笑うのだ。
出来の悪い兄に出来て、
出来の良い弟に出来ない
唯一のこと。
幼い頃より、時折そんな光景を目にしてきた私だからこそ、
父が兄の才能に執拗なほど期待を抱いていた気持ちは、
痛いほどに、わかっていた。
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