アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
転機
-
「おかえり、幹久!」
ある夏の日のことだった。
学校から帰ると、兄が玄関で私を出迎えた。
兄は高校の制服を着て、靴もまだ履き替えていなかった。
容姿も性格も似ていない兄が唯一父から受け継いだ点は、おそらく頑固さだ。
その頑固さで掴み取ったのが、この学校へ通う許可。
小、中と私と同じ地元の学校に大人しく通っていた兄に、何が起こったのかはぶつかりあった父しか知らないが、おそらくこうだろうと言うことは、弟の私も感づいていた。
通いたいと言い出した学校は、海外との交流が盛んな、国際学校だった。
「これを見てほしくて待ってたんだ」
そう言って兄が突き付けてきたのは、何やらアルファベットばかり並ぶパンフレットだった。
英語だかイタリア語だかは私には理解できなかったが、開いて見せられたページには、海外の舞台の様子が写っていた。
“ロミオとジュリエット”
その言葉だけは読むことができた。
パンフレットの写真では、おそらくロミオ役の茶髪の男と、ジュリエット役の金髪の女が、笑顔でインタビューを受けていた。
「これが…何?」
さっと目を通したパンフレットを兄に返し、私は訊いた。
兄はもっとよく見ろとパンフレットを突き返し、本当に素晴らしいんだ、すごいんだ、と、とにかく興奮しきった様子だった。
しかし、その時私は気付いた。
私や父に全く似ていない童顔な兄の顔には、
所々赤く腫れ、腕や服から覗く肌のあちこちにも、痛々しい痣が見られることに。
まさか、と顔を上げても、
この予感が外れでないことは、完全にわかっていた。
兄は笑っている。
本当に嬉しそうに笑っている。
身体中を痣だらけにしながら。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
3 / 36