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告白
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「…眞人」
「また…兄さんと呼べって言ってるだろ?」
兄がくったくなく笑う。
私より頭ひとつ分も低い身長から、弟を見上げて。
しかし私は笑い返さなかった。
元より兄のようにくったくなく笑うことなどできなかった。
しかし、今ほどに“笑う”という表情に嫌悪を抱いたことはあったろうか。
そんな私に気づき、兄は私に押し付けようとしていたパンフレットを、静かに下ろした。
兄が、真っ直ぐに私を見る。
私に理解できない言語の、学校のパンフレットを握りしめて。
「幹久…僕は」
嫌だ、聞きたくない。
「スクールの入学テストに合格したんだ。近いうちに、僕は家を出ることになる」
ああ
早かったな。
予想よりずっと。
きつくこぶしを握りしめながら、焼けるような痛みとは裏腹に、私は冷静に思った。
「幹久、僕がこんなだから、君にはたくさんの負担を負わせてしまったと思う」
「多分、これからも、長男である僕が負うべき責任を、君に押し付けてしまうことになるだろう」
「でも、君の舞台を一目見れば、誰も君が家を継ぐことを反対しないと思うんだ」
「本当にすまないと思っている。僕は酷い兄だ」
「それでも、僕は自分の夢を捨てきれないんだ」
「この家だって、きっと君を」
「眞人」
絶えることなく、ひたすらに言い訳を繰り返す兄に、私は静かに呼び掛けた。
たった一言で、兄はぴたりとそのよく動く口を閉じる。
ああ、幼い頃からそうだった。
兄は“感じる”ことが上手かった。
この人が何を言おうとしているのか。
今、自分がすべきことは何か。
全てを瞬時に感じ取り、その通りに自分を演じる。
それが兄の才能だった。
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